「ルシファー」が地上にやって来た!

当方は最近、米TVのドラマ「ルシファー」(Lucifer)を視ている。シリーズ2がまもなく公開されると聞く。少々、コメデイー風に描かれたストーリだが、結構面白い。ルシファーは聖書の世界では重要な存在だ。人間始祖アダムとエバを誘惑し、「取って食べてはならない」という神の戒めを破らせて堕落させた張本人だ。欧米のキリスト教社会ではルシファーといえば「悪魔の天使」を意味する。

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▲TVシリーズ「ルシファー」のポスター

そのルシファーを主人公にした映画だ。神から叱咤され地獄から追われ地上のロサンゼルス市に現れたルシファーは、地上ではロサンゼルス市警の女警察官(クロエ・ダンサー)を助けて様々な犯罪を解決していくという話だ。

ルシファーが、「あなたは何を願っていますか」と問いかけると、尋ねられた人は心で願っている本当のことを白状してしまう。ところが、1人だけルシファーの魔術にはまらない人間がいた。それがロス市警のクロエ・ダンサーだ。ルシファーは嘘のない純粋な女警察官に新鮮な驚きを感じる。

ルシファー役を演じる俳優はトム・エリスだ。興味深い点は、悪魔を演じるエリスの父親と叔父はバプテスト派教会の牧師であり、家族関係者には聖職者が多いことだ。ジャーナリストから「悪魔役を演じることに家族から反対はなかったか」と聞かれた時、エリスは、「私がルシファー役を演じることに何も反対はないよ。映画の世界の話だからね」と笑いながら答えている。ちなみに、ルシファーが放映されると、米国カトリック教会では「聖書の深刻な内容を茶化している」といった批判の声が出ているという。敬虔な信者にとっては、ルシファーは決してコメディアンではないわけだ。

ところで、米ハリウッドではここにきて米俳優ではなく、英国人俳優を抜擢するケ-スが増えている。「Dr House」の主人公を演じたのは英国人俳優ヒュー・ローリーだった。英BBCが放映する「シャーロックホームズ」のシャーロックホームズ役は英俳優のベネディクト・カンバーバッチが演じたが、カンバーバッチは現在、米ハリウッドで売れっ子だ。米CBSで2012年から放映され大ヒット中の「エレメンタリー」(Elementary)でシャーロック・ホームズ役を演じるジョニー・リ・ミラーも英国人だ。「ウォーキング・デッド」(Walking dead)の主人公リック・グライムズは英国俳優のアンドリュー・リンカーンが演じた。今回のルシファー役のトム・エリスは英国人ではないが、ウェールズ出身者、といった具合だ。

ハリウッドはここにきて米国俳優ではなく、英国俳優を好んで主人公に抜擢してきた。それには理由はある。①米国の俳優は通常、巨額のギャラを要求するが、英国人俳優はそれほどではない、制作側としては経済的メリットがある。②米国民は英国人俳優が話す英語に惹かれる。すなわち、本場のブリティッシュ・アクセントに米視聴者が心をひかれるという、③英国人俳優は演劇の経験が豊富であり、演劇力は確かだ、といった理由だ。

なお、番組「ルシファー」を観て改めて気がついた点は、悪魔は自分から人間を懲らしめない。人間が悪いことをした時、その罰として人間を懲らしめるだけだ。悪魔が理由なく人を苦しめることはない、ということだ。不幸なことに、人間はさまざまな悪いことをするので、ルシファーは罰を与えるために忙しくなる、というわけだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2016年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。