何処に原因がある、低成長の世界経済

岡本 裕明

IMFが最新の政策レポートで「2018年までにG20の国内総生産(GDP)を2%底上げする目標は『達成できないだろう』と懸念した」(日経)とあります。その理由を各国の構造改革が予定通り進まなかったから、としていますが、そうなのだろうか、とふと疑問を感じています。

ブラジルの4-6月GDP。予想を下回るマイナス3.8%(前年同期比)となり、6四半期連続の下落となっています。オリンピックのあった第3四半期は一時的に数字が良化する可能性もありますが、体質の変化が起きているわけではなく今後も先行き回復の見通しは立っていません。

インドの4-6月GDP。こちらもがっかりするような7.1%成長にとどまりました。同国は2016年の成長率目標を8%としていたこともあり、赤信号がともったといってよいでしょう。足を引っ張ったのは個人消費で前期の8.3%増から6.7%増と伸びを欠いています。

このようなさえない経済データは新興国だけではなく世界中何処でも同じ状況であります。カナダもオーストラリアもうーんと唸るような数字であります。むしろ意外と数字が良いのが英国で本日発表の購買担当者指数(PMI)は事前予想49.0を大きく上回る53.3となり、製造業が思ったより元気だったことを裏付けました。しかし、英国のオフィスビルなどに投資をするREITは解約の申し込みが相次ぎ、壊滅的状態になっているともされます。

韓国財閥の一つ韓進グループの中心的存在で韓国最大の韓進海運が会社更生法を申請しました。この倒産も船舶の供給過多で業界全体が赤字という環境の中で起きたものです。韓国政府は現代グループの海運部門に救済合併をさせようと試みているようですが、厳しい気がします。

日本の不動産。この数年盛り上がっていましたがどうもパタッと足が止まったような感じがいたします。理由は円高による外国からの買いの手が引っ込んでいること、もう一つは国内個人が「買いたいと思わない」からであります。いくら住宅ローンが安くてもこれだけ長いこと低金利が続いていれば買える人はさっさと買っていますのでこれ以上の新たな潜在需要の掘り起こしは質の低下を招くし、マーケットそのものがシャローだと思われます。

カナダ、バンクーバー。外国人が不動産を購入する場合には15%の特別取引税を課すようになった8月から不動産の取引数は壊滅状態。売り急ぐ物件は特別税相当の15%程度を値引きする例が増えてきています。市場では10-18%程度の希望売値の引き下げが散見されます。

世界を見渡すとろくな話がないこの理由がどこにあるのか、ですが、やはり行きつくところは金融緩和ではなかったか、と考えます。リーマンショックを契機とする世界経済のずれた歯車と言いましょうか?

2007年頃までは世界はまだまともな金融政策がワークしていました。ところがリーマンショックで主要国から新興国まで一斉に金利を引き下げました。これは国内景気を刺激するためです。グローバル化が進む中で世界が一斉に利下げするとどうなるか、といえば供給過多が生じ、過剰な価格競争が生まれます。人件費は抑えられ、企業は生き残りを懸けたギリギリの戦いを余儀なくさせられます。

この状態にはもう一つ、この10年で世界的な消費性向を変えるほどの新製品が生まれていないことがあげられます。大型テレビもスマホもいわゆる市場拡大期に入っており、今ではコモディティ化しています。つまり、革新的製品がない中で需給バランスが崩れた上、低金利でゾンビ企業が生き延びる余地を作ったとも言えます。

もちろん、景気が悪いから経済対策としての金利引き下げでありますが、本来の経済の健全性からすると4%や5%の金利を払っても利益がきちんと出るのがビジネスでありました。ところが、過当競争で今やそんな金利を払ってやっていけるところはごく一部になってしまいました。これはとりもなおさず、利益体質が悪化し、売り上げが伸びていないと言い切っても過言ではありません。

日本のシェアハウス。一時流行りましたが今では空きだらけです。満室のシェアハウスとそうではないところの違いはなにか、といえば価格。とにかく安いところは埋まります。これはデフレそのものでしょう。

バンクーバーで弊社が運営しているレンタカー事業。当社は大手に比べ2-3割安いこともあるのですが、8月も過去最高の売り上げとなったその理由は「価格」であります。私がこの夏、お客様とかなり直接的に接触し「なぜ当社でお借りになっていただけるのか?」と聞いたところ、「安い」のオンパレードでした。

人は付加価値にお金を払わなくなりました。日産が国内初の一部自動運転機能を付けた「セレナ」は何故、装着型とそうでない車種の差が20-30万円ぐらいしかないのかわかりません。かつてはクルマのナビでも大昔はエアコンでもそれぐらいの価格差があったのです。

こちらで経済関係の読み物をしているとcontractionという単語が頻発します。収縮という意味ですが、さてこの縮みあがる経済が反転するきっかけはどう生み出すのか、悩ましい気がいたします。

では今日はこのぐらいで。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 9月2日付より