企業経営に警鐘を鳴らす情報通信白書2016

2016年10月03日 11:30

1

情報通信白書2016、出ました。ぼくは今回も編集委員を務めました。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01tsushin02_02000101.html

ICT成長による実質GDPへのインパクトとして、2020年時点で33.1兆円の押し上げ効果を見込んでいます。

そして今回の白書の特集は、IoT・ビッグデータ・AI。その概要はこちらに。いくつかポイントを抽出します。
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h28/summary/summary01.pdf

今回の挑戦の1つ、ICTの消費者余剰分析。
MITスローンのマカフィー+ブリニョルフソン「ザ・セカンド・マシン・エイジ」が「GDPの限界」として、の生産・産業価値=GDPではICTの価値を捉えられないと指摘、モノ・サービスが生む消費者余剰をどう計測するかを問いかけました。

この問いにはぼくもかねて問題意識を持っておりましたが、その指標づくりに成功した例は知りません。今回、白書は果敢にもそれに取り組みました。
http://ichiyanakamura.blogspot.jp/2016/05/blog-post_23.html

白書は「ICTの価値は企業側と消費者側それぞれにもたらされるが、企業側は最終的にGDPの増加等として既存統計でとらえられるのに対し、消費者側は既存統計でとらえられていない部分(非貨幣的価値)がある」とし、①消費者余剰、②時間の節約、③情報資産(レビュー等)に着目して分析しました。

①消費者余剰(消費者が支払っても良いと考える価格と、実際に支払われている価格との差)について、音楽・動画視聴サービスを事例に分析すると、利用者は1ヶ月あたり150円~200円程度の余剰を得ている。年間の消費者余剰額を推計すると合計でおよそ1097億円。

②時間の節約について、ネットショッピングを事例に分析すると、1回あたり40分~1時間程度の節約になった。

③情報資産(レビュー)について、ネットショッピングを事例に分析すると、8割以上の利用者がレビューによって購入する商品を決定した経験がある。

消費者余剰はもっと大きいだろう、という気はしますが、まずはこれに取り組んだ姿勢を認めたい。この分析を厚くし、精度を高めていくことは、世界的な貢献となると考えます。

一方、白書は企業側の対応に厳しい視線を投げます。

2

日本企業のICT投資は、業務効率化及びコスト削減の実現を目的とした「守りのICT投資」という状況が浮き上りせます。

米国企業は、「ICTによる製品/サービス開発強化」、「ICTを活用したビジネスモデル変革」などを目的とした「攻めのICT投資」により、ICT製品、サービスで先行したと分析しています。

日本企業のICT投資/GDPは米英などに比べ低く、かつ、不況時には低下するが、米英などは不況時に高まるという調査結果もあります。ここ10年来、日本企業の競争力が高まらない原因の1つに、企業経営のICTを見る視線の低さがあると思います。
IoTの利用も分析しました。

日本はIoTを活用した業務効率化などの状況をあらわした「IoT進展指標」が低い。通信インフラ指数は最高水準だが、IoT進展指数は米中独英に劣ります。つまり提供はあるのに、利用がダメということです。これも企業経営の問題。

IoTによる市場拡大に関する予測も日本企業は相対的に低い。2015年から2020年にかけて各国はIoTの導入率が2~3倍になることが予測される一方、日本はIoT導入意向が低く、今後他国と差が開いてしまうおそれがあります。
AIの利用も分析しています。

日本の職場では「AIへの対応・準備は特に何も行わない」とする者が多くみられます。米国ではAIの知識・スキルを習得するなど、AIを使う側に立って、今の仕事・業務を続けようと対応・準備するとする者が多くみられます。

ただ、違う見方もできます。
自分の職場へのAIの導入や、仕事のパートナーとしてのAIに対する抵抗感は、米国に比べて日本の就労者方が小さい傾向があります。これは日本の職場のほうがすんなりと普及が進む兆しかもしれません。

総じて見るに、ICTにしろIoTにしろ、日本は利用する企業経営側の認識が低く、それが競争力に響きそうという分析です。これはかねてから白書が日本のICTの課題は企業経営(と教育・医療・行政)の利用にあると指摘していることの延長。社長(と先生と医者と首長)の問題です。

インフラなどの提供側や、一般消費者・若者などICTのユーザ側はイケてるんですが、企業利用に難がある。IoTもAIも、インダストリー4.0とかで成長戦略を描くなら、利用政策を厚くすべきです。

開発側に補助金をつけるより、利用側を税制で刺激すること。企業利用を先導すべく政府が強力な需要者となってIoTやAIを先行導入すること。という政策を示唆できます。

・・・白書はそんなことまでは踏み込みませんけどね、ぼくの意見でした。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年10月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。

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