デジタル教科書を正規の教科書として導入する政府方針が固まろうとしています。これを受け、取材が増えてきました。先日も雑誌から基礎的な質問を受けたので改めてお答えしました。
・教育現場での普及状況は?
端末は小学校6.5人に1台。1人1台は遠い。日本は後進国。デジタル教科書はまだ正規扱いではなく、法改正が必要。
・デジタル教育のメリットは?
創造・共有・効率。楽しくて・つながって・べんり。AV機、ネット、計算機の機能を活かしてできること全て。
・成果はどう現われる?
学習意欲、理解度、思考表現力の3点の効果が認められている。
・なぜいま必要なのか?
学力低下(OECD PISAの順位低下)に加え、日本の子どもたちは他国に比べ学習意欲に乏しいという状況。問題解決力やコミュニケーション力など新しい力を身に付ける必要性も世界的に求められている。
・学校に導入する必要性は?
暮らしも仕事もスマホなどデジタルが不可欠になっていて、子どももデジタルで遊んでいるのに、学校だけが使えない状況。特に教科書は紙しか認められない制度となっており、まずはその課題をクリアすべき。
・理想のデジタル教育とは?
ない。アナログ教育でさえもなお改善中であり、理想に到達していない。デジタルも100年後も改善中のはず。まず始めること。
・具体的な利用シーンとは?
教室の中での教え合い学び合い、学校外との交流などが広がっている。デジタル+アナログ、バーチャル+リアルを混合させ自然に使っている例が多い。
・先生が使えないのでは?
2歳児だって使ってるのに失礼ではないか。現にベテラン教師ほどデジタルでいい授業をするという報告がある。
・日本が後れた原因は?
学力が上がるのか、使いこなせるのか、姿勢が悪くならないか、などさまざまな疑問が寄せられたが、根本は過去のアナログ教育で日本が成功していたこと。デジタルで一変することへのばくぜんとした不安。
・普及の格差の原因は?
自治体の首長のやる気。教育情報化予算は確保されているが自治体の裁量で道路などに化けている。教育情報化と他行政の優先度の問題。
・文科省の中間まとめをどう受け止めるか?
紙の教科書をベースにデジタル化し、その範囲で検定にかけるという結論は妥当な現実解。一方、デジタル教科書のコスト負担を家庭に求めるのは問題。紙と同様、国が予算をつけて無償配布すべき。
・課題は?
1) デジタル教科書を正規化する法制度の整備–国会。
(学校教育法などに加え、著作権法の改正が重要。)
2) デジタル端末の整備–自治体。
(PC整備は小学校6.5人に1台。これも主要国で最低レベル。自治体には国からこのための交付税が措置されているので、自治体がしっかり予算を組むべき。)
3) ネット環境の整備–政府。
(端末のハード、教材のソフトが揃っても、学校のネット化がネックとなる。セキュリティーやプライバシー保護などの問題を解決しながら学校のネット化を進めるべき。)
4) 端末・教材流通の低廉化–民間。
(中古端末流通システムとか教材著作権処理機関など民間が取り組む課題も多い。)
・おカネがかかる?
日本は公教育への支出が少なすぎる。社会としてカネをかけよう。
・民間の取組は?
中古端末の流通、教材配信システム、著作権処理機構など民間が取り組む課題も多い。教育を産業として拡大する努力をすべき。
・教育を産業にするなという指摘があるが?
教育20兆コストのかなりの割合がデジタル市場となる。日本が産業化しなければ、海外のハード・教材業界のものを使うだけ。産業化し、投資や海外展開を促すことでいい教育環境が整備される。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2016年10月17日の記事を転載させていただきました(アイキャッチ画像は文部科学省サイトより編集部引用)。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。