25日に毎日新聞は、日銀が31日から2日間開く金融政策決定会合で追加の金融緩和を見送る方向となったと伝えている。物価上昇率の見通しは下方修正する方針だが、9月の前回会合で導入した新たな政策の効果を見極める必要があるとの意見が優勢となっているそうである。
21日に日銀の黒田総裁は衆院財務金融委員会に出席し、物価目標の達成時期が後ずれする可能性を示唆した一方、追加緩和には慎重な姿勢を示した。
31日から11月1日にかけて開かれる金融政策決定会合では、「経済・物価情勢の展望」、いわゆる「展望レポート」も発表される。ここで物価目標の達成時期について現在の「2017年度中」を2018年度以降に先送りするとみられている。先送りするのであれば、追加緩和をするのではとの思惑が海外投資家などを中心に一部に出ていたようである。
その期待が裏切られ、ほとんど動きのなかった債券先物が21日から24日にかけて下落した。下落したと言っても先物で20銭程度なので、誤差範疇ではある。それでも久しぶりに動いたことも確かであり、24日は現物債の中期債が売られて、超長期債はしっかりしていた。中期債の売りは、追加緩和期待で買っていた海外投資家が一部売ってきたとの見方もあった。
ただし、日銀は9月にフレームワークを大きく変更してしまったことで、むしろ追加緩和には動きづらくなったとの見方もできることに注意すべきである。一部の海外投資家などはさておき、国内の市場関係者の多くは日銀はそう簡単に追加緩和はできなくなったとの認識が強くなっているのではなかろうか。
なぜ日銀は9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」という政策に変更し、操作目標を「量」から再び「金利」に戻したのか。
昨年12月に日銀は補完措置を決定したが、これは国債買入の量の限界を示すものとなった。このことは1月の決定会合でマイナス金利を導入したことからも明らかである。量から替えてマイナス金利の深掘りを追加緩和手段にしようとした。ところがマイナス金利の弊害が出て、金融機関からの批判も相次ぎ、その深掘りも困難となってきたのである。
9月の総括的な検証など待たずとも、量の拡大が物価の上昇に寄与してこなかったことは明らかな上、マイナス金利による国債のイールドカーブの急速なフラット化は、資金運用にも悪影響を与えることとなった。量も動かせず、マイナス金利の深掘りも困難となり、金融機関からの批判に対処するために、捻り出された手段がイールドカーブコントロールとなったとみられる。
物価がいっこうに上がらない限り、日銀は退路を閉ざされていることもあり、前向きの姿勢を示さざるを得ないため「オーバーシュート型コミットメント」を持ってきた。目標を多少引き上げようが、そもそも物価が金融政策で動いていない以上は、あまり意味はない。これで追加緩和の可能性が強まったとは受け取れない。
「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」は追加緩和の余地を拡げたわけでもなく、むしろ量と金利の限界を示すものとなり、これはつまり余程のことがない限り、日銀が追加緩和を行うことが困難となった見ざるを得ない。そしてもし仮に追加緩和として長短金利をさらに深掘りしても、それがもたらすプラス効果は何でも良いから「追加緩和をした」との事実からの一時的な円安・株高程度ではなかろうか。実態経済には負の効果のほうが大きくなる懸念すらある。
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編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2016年10月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。