米大統領選で池上彰の予言は大誤算

中村 仁
大世界史

池上氏がトランプ氏敗戦を予言した「大世界史」(文春文庫より;編集部)

「トランプはない」との断言の検証を

安倍首相がトランプ次期米大統領と会談し、いい雰囲気だったと、メディアは伝えております。そこで思い出すのは、本を書けばベストセラーになる池上彰氏が一年前に出版した「大世界史」(文春新書)での大予言です。「トランプ氏は勝てません」と断言しました。忘れていませんよね、池上さん。大統領選の結果を分析をするようお勧めします。

「大世界史」は、一方の対談相手がこれまたベストセラーを連発する著名学者の佐藤優氏という著名人でしたから、早速、買って、書評めいたものを一年前にブログに書きました。「多くの人が見通しを誤ったことだし・・」、と思っていましたら、記憶力のいい友人が「両氏は大統領選について、見事に外れました」と、今日付けでネットに投稿しました。二人の共著は「最強のコンビ」(文春)だそうです。日本で最も著名なジャーナリストと学者の壮大な間違いは関心をひきます。

新聞、世論調査も軒並み、見通しを誤ったほど、予想を裏切る選挙でした。ですから並みの評論家、学者なら不問に付すとしても、毎月のように本を出し、連日のテレビ番組をお持ちで、社会、経済、政治、国際問題を取り上げている「超一流」池上さんとなると、そうはいきません。池上氏は新聞などメディア批判も熱心ですから、ご自分たちが「誤診の研究」でも出版し、間違いの検証をするよう願っています。

あまりにも自信過剰な見通し

気楽に大統領選を予想したというのならともかく、それなりの根拠を説明しての予想です。紹介しましょう。「共和党ではトランプ氏が注目されています」(池上氏)、「かれが民主党候補に勝ち、大統領にになれるかと、言えば、可能性はゼロです」(佐藤氏)、「ですからトランプが共和党候補になることはむしろ民主党が望むところです」(池上氏)。弱い候補だから、民主党には勝つ自信があるということでしょう。

さらに「米国の人口のうち、黒人、ヒスパニック、アジア系が37%を占め、2020年ころには50%になるでしょう。非白人の人口増加からいうと、伝統的なエリート層とウォール街しか見ていない共和党は、おのずと大統領選に勝てなくなりますね」(佐藤氏)、「トランプは勝てません。共和党は前回の大統領選が最後のチャンスだった、と言われています」(池上氏)。両氏はヒラリー・クリントンの当選を固くし信じて予想していたことが、本から窺えます。

勝因、敗因も見誤る

大統領選挙人の数ではトランプが勝ち、得票総数ではヒラリーの勝ちでしたから、きわどい勝負でした。ですから「最後まで分からない」というならともかく、はっきりと「勝てません」との断言、それも一年前(昨年10月刊)の断言は見事は誤りです。米国のメディア、世論調査もそろって見通しを誤ったのですから、それを含めて検証することはかれらの務めだし、意味があります。

もっともトランプ氏の選挙公約は、従来の共和党とは違います。共和党の主流派がトランプ氏を拒否し、距離がありました。トランプ氏は、両氏がいう「伝統的なエリート層とウォール街しか見ていない共和党」とは違ったのですね。皮肉なことに、むしろ民主党のヒラリー氏が共和党でした。両氏は勝敗予想と勝因予想で、二重の間違いを犯したことになります。

米国人も見誤る勝敗を、まして日本にいる日本のジャーナリスト、学者が見通すことは至難でしょう。ですから私は両氏を批判するつもりは全くありません。お願いは誤診の検証なのです。ぜひ、ぜひ。待っています。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2016年11月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。