多様な人々に使われる技術も公共サービスは対応が遅い

12月23日に、NHKニュースウォッチ9で「サイバー攻撃を防ぐ全盲プログラマーの技」という映像が流れた。音声読み上げソフトの普及が視覚障害者の活躍の場を広げ、情報セキュリティー会社でトッププログラマーとして活躍しているという内容だった。キャスターは知らなかったと言ったが、スマートフォンには音声読み上げと音声認識の機能があり、障害者を含め多くの人々が利用している。「OK Google!」がその典型である。

障害者の社会参加を促進するために、米国では技術が古くから利用されてきた。空港などでタイプライターが付いた公衆電話を見かける。このタイプライターはTTY(Teletype)と呼ばれる専用端末で、相手方もTTYを持っていればテキスト通信ができる。相手方がTTYを持っていないときには、オペレーターが仲介してテキストを読み上げ、また、相手方の音声をテキストに変えてくれる。これを電話リレーサービスと呼び、聴覚・言語障害者に電話利用の機会を与えてきた。電話リレーサービスの運営費用には、電話加入者全員が負担するユニバーサルサービス基金が使われている。

12月16日に米国連邦通信委員会(FCC)は、TTYに代わってRTT(Real-Time Text)を義務化すると決議した。RTTでは一文字タイプするごとに相手方に表示されるので、TTYよりもリアルタイム性が高まる。

わが国では電話リレーサービスは義務化されていない。しかし、LINEのようなSNSが広く普及しており、これを使えば、一文字毎とはいかないが、ほとんどリアルタイムで会話できる。聴覚・言語障害者だけではなく、音声読み上げ・音声認識を使って視覚障害者も利用できる。TTYを超える、誰もが利用できるコミュニケーション手段がわが国にはある。

問題は行政サービスでの対応が遅れていること。東京消防庁は登録した障害者に限定して緊急ネット通報を利用可能にしているが、誰でも連絡できるLINEアカウントはない。警視庁犯罪抑止対策本部はTwitterの公式アカウントを持っているが、緊急通報は受け付けない。警察庁は2015年11月に訓令第19号で「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」を定めた。相談窓口については対面のほか、手紙、電話、ファックス、電子メール等の多様な手段を用意することになっている。しかし、相談でのSNS利用や、緊急通話の改善は対応要領にない。

ガス漏れでも同様。東京ガスは「ガス漏れ専用電話」で連絡することになっており、ファックスも受け付けない。SNSなど論外である。他のガス会社も調べたが、仙台市営ガスも同様で、「インターネットでのお問い合わせ、ご意見・ご要望」の欄に「「ガス漏れなどお急ぎのご用件は電話にてお問い合わせ願います。」と書かれていた。

情報通信技術の進歩は著しく、障害のある人もない人も便利に利用できるサービスが増えている。それによって、多様な人々が社会参加できる可能性が高まっていく。一方で、公共サービスの動きは遅い。ガス漏れを含め緊急通報は命に直結するので、できる限りいろいろな方法で連絡が取れるのがよいが、実情は紹介したとおりだ。公共サービスは新技術に早く対応してほしい。