2016年 私の10冊

2016年12月31日 12:50

常見161231

毎年、この時期になると、この私の10冊企画をやっている。音楽同様、普段読む本は古い本だったりする。だから、このセレクションの意味って何だろうと思ったりするが、いきなりやめるのもあれなので、続けることにする。

2016年に出た本で、私がその期間に読み終わった本から選ぶ。評価の高い本でも、私がそもそも発見し、ちゃんと読んでいない場合は選外となる。数年前から「趣味の読書」の中から選ぶことにしている。仕事の読書は、良い悪い、好き嫌いに関わらず読まざるを得ないものもあり。普通に読むとつまらないけれど、貴重な一歩だったりするものもあるわけで。

10冊に順番はつけないものの、だいたい紹介順だと思って欲しい。今年は、パーソナルヒストリーというか、著名人を追った本を読んだ年だった。生き方のヒントが欲しかったのかな。コンテンツに関する本も読んだな、それなりに。特に音楽の本。疲れていたのだろう。

まさに、働き方に関する議論が盛り上がっているわけだけど、煽り気味の本よりも昔はどうだったのかを振り返る方がいいかなあと思ったり。

さて。今年の10冊はこちら。

全裸監督 村西とおる伝
本橋信宏
太田出版
2016-10-18


ナイスな1冊。圧巻としか言いようがない。「AVの帝王」であり、前科7犯、借金50億、米国司法当局から懲役370年求刑という、なんせ規格外の男、村西とおるのライフヒストリー。分厚いのだけど、一気に読めてしまう。いや、読まざるを得ないという。生きるということの凄まじさが伝わってくる。法律上も、道徳上もダメなことをしているのにも関わらず、それが美しく見えてくるのは何故だろう。傑作としか言いようがない。


田原総一朗が朝生を振り返った1冊。同番組は来年30周年。なんせ、80~90年代の話が面白い。原発、天皇制、差別、右翼、宗教、安全保障など、デリケートな問題に容赦なく斬り込む。そのために、数ヶ月かけて、論者を説得し出演してもらう。世の中に波風を立てる熱量に興奮。まあ、これだけの切れ味と熱があれば、今の朝まで生テレビも、もっと面白いのだろうけどね。コンテンツ作りの醍醐味を感じる一方、今の朝生に燃えられない理由もよくわかった。テーマというか、その中での論点設定と、なんせ出演者が無難すぎるんだよ。

昭和プロレス正史 上巻
斎藤文彦
イースト・プレス
2016-09-17


労作としか言いようがない。この本はプロレスファンというよりは、社会学やジャーナリズムに興味のある人にオススメ。史実、事実、真実の違いがよく分かる。


今年は速水健朗さんのアウトプットが多い年だったけど、その中でもこれが好きだなあ。さすがの速水健朗クオリティ。積み重ねている事実の量と深さが違う。東京という街が常に現在進行形であリ、パッチワーク感があることを、うまく浮き彫りにしている。

地域再生の失敗学 (光文社新書)
飯田 泰之
光文社
2016-05-27


ここ数年地方が話題になっているが、手軽に読めるものでありつつ、建設的な解決策まで提示している、実に新書っぽい本がこれ。地方再生の偽善、茶番を斬りつつ、気鋭の論者たちのオピニオンを紹介する痛快な1冊。新書っぽい楽しさと希望に満ち溢れた本だった。

ウェブでメシを食うということ
中川 淳一郎
毎日新聞出版
2016-06-25


アウトプットの量と言えば、中川淳一郎のアウトプット量がスゴイことになっていた。連載のまとめ本だけでなく、かなり書き下ろしていたかも。全部読めないレベル(ごめんな)。その中でも好きなのが、これ。中川視点で見た、ネットニュース10年史。彼の半径15メートルくらいで起きたことしか書いていないのが、いい感じ。リアリティが半端ない。テクノロジーの象徴のようなネットだけど、人々の熱で動いていることを再確認。いまやネット界は荒れ地とも言われるけれど、希望を見出してしまった、私は。

ヒットの崩壊 (講談社現代新書)
柴 那典
講談社
2016-11-16


今年は音楽関連の本の良著が多数リリースされた年だった。中でもこれは最重要書。「ヒットの崩壊」と言いつつ、音楽界の売り方(売れ方)、楽しみ方が変化していることを上手く交通整理している本である。音楽業界で起きたことは、他のコンテンツの世界にも波及する。別に音楽ファンではなくとも、今どきの消費やコンテンツを読み解くために必読の本だと言えよう。

1998年の宇多田ヒカル (新潮新書)
宇野維正
新潮社
2016-01-15


最初、ベストテンから除こうと思っていたのだ。これ、今年の本だったんだよね。テーマ設定が絶妙。さすがの宇野さんクオリティ。登場するディーバたちのライフヒストリーもそうだけど、日本の音楽界の構造変化を感じる1冊。


西寺郷太さんの本はどれもたまらないのだけど。今年出たこれ、テーマ設定がいい感じ。ジャネット・ジャクソン「だけ」の本ではない。マドンナや、ホイットニー・ヒューストンといったディーバ、さらには80年代のシーン、ジャクソン家にも光を当てているのがポイント。凄まじい情報量を、鋭い視点で編んでいく力が素晴らしい。なんというか、本当はもっとページ数かけるんだろうなあと思ったり。それを凝縮させているというか。

女子の生き様は顔に出る
河崎 環
プレジデント社
2016-11-29


そして、今年は気鋭のエッセイスト河崎環が著者デビューした年。なんせ視点が慧眼すぎる。着眼点、掘り下げ方、文体すべてが痛快。相当頭がいい人なのに、エモく書いているのもポイント。売れるよなあ、彼女、来年。

こんな感じ。

・・・全然読んでなかったのかな、今年。いやそんなことはなくて、古い本を読み漁ったり、以前も読んでいた本を読み返したりしていたかも。仕事のための読書というか、いま書いている本のための読書が多めだったかな。個人的に疎い分野である政治や、経済に関する本、特にポピュリズムに関する本なんかも読んだりしたのだけど、消化しきれず。

来年はもっと読みますかね。

一物書きとして感じることを、書き連ねるとすると・・・。なんというか、書籍がやっと部数から解き放たれたと、私は見ている。いや、商業出版で出すからにはベストセラーを目指すって話になるのだけど、その指標を追いかけるのがいいのかと思うことがあり。

私が気づくのが遅かったのかもしれないのだが、「書籍」に関して言うならば、いかに「自分が理想とする読み方」をしてもらうかということが大事だなと思った次第だ。届け方というか。書籍だけで儲けようなんて思ってはいけない。読者のため、社会のために書くのだ。いや、何より自分が生きてきた証なのだけど。

著者として食っていけるかどうかと、そのアウトプットにどんな意味を持たせるのかを分けて考えなくてはならない。売れなくても、世の中を動かす本というものもあるわけで。

個人的には、専門家としての責任を果たすこと、世の中に新しい視点を提供すること、社会を一ミリでも動かすことにこだわって書こうと思った次第だ、書籍に関しては。自分自身への挑戦でもある。

さ、今日も原稿書きますかね。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2016年12月31日の記事を転載させていただきました。転載を快諾いただいた常見氏に心より感謝申し上げます。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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常見 陽平
千葉商科大学国際教養学部専任講師

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