中国のテレビに「最萌」と評されたパンダの写真

加藤 隆則

昨晩、中国中央テレビ(CCTV)を見ていたら、世界の2016年ナイスショット写真にパンダの写真が選ばれたとのニュースを報じていた。

英『TIME』誌が2016年の「Astonishing Picture(びっくり写真)」50件を選んだうちの1枚で、同年9月末、中国成都のジャイアントパンダ繁殖研究基地で撮影された。23匹の赤ちゃんパンダが台の上に並べられ、外部にお披露目されたが、そのうちの1匹が滑り落ち、飼育員が慌てて駆け寄るシーンだ。海外のネットメディアに多数転載され、話題を呼んだ。

気を引いたのはパンダよりも、ニュースのタイトルに「最萌(最もかわいい)」とあったからだ。

「萌」は中国語で「meng」と発音する。日本のアニメから広まった「萌(も)え」が伝わり、ネットを中心に「かわいい」の意味で使われている。2014年には中国の国家語言資源モニタリング研究センター、商務印書館、人民日報サイト『人民網』の共同主催による「今年の漢字・流行語」コンテストで、「反腐(腐敗撲滅)」「打虎(トラ退治)」に交じって、「萌萌噠(mengmengda」がノミネートされた。「萌萌噠」は「萌」をより強めた「すごくかわいい」の意味だ。

CCTVが「最萌」を用いるのは、NHKが字幕で「超カワイイ」と流すようなものである。そこまで定着したのかという感慨とともに、日本人が使う「かわいい」と語感が全く同じであることに驚いた。日本語の「かわいい」には、小さいもの、弱者に対する共感や同情が含まれている。まさにそれと同じニュアンスが感じられたのだ。

中国語の「可愛(ke ai)」は「愛すべき」と訳すのがふさわしい。深く感情を移入した表現で、若者が頻繁に使う日常会話ではない。だからこそ、日本語の「かわいい」を共有するために「萌」が広まった。「かわいい」と同様、言葉遣いやしぐさ、服装、持ち物、あらゆる対象に「萌」は使われる。2013年には江蘇省の江蘇大学で身長差が35センチもあるカップルの写真がネットに流れ、「最萌身長差」と話題になった。

この場合の「萌」は、身長差を超えた二人の仲の良さや女性の小ささに対応したものだ。日本語で「かわいいカップル」と形容しても違和感はないだろう。

「萌」は、漢字の「可愛」に縛られた「かわいい」の概念の壁を取り払うことに貢献したわけだ。「かわいい」の意味が幅広く共有されたことを背景に、もっと直接的な翻訳が行われている。漢字の表音機能を用い、外来語として「かわいい」の音をそのまま取り込んでいるのだ。チャットの絵文字にはこんなものが使われている。

「卡哇伊」の発音は「ka wa yi=カワイー)」だ。日本語の音がそのまま漢字で記されている。かつて日本に漢字が伝来した際、日本人はまず最初、音によって自分たちの言葉を文字に移し替えた。万葉集に使われた万葉仮名である。その後、日本人は漢字の偏や旁からカタカナを作り出し、多数の外来語を音のまま輸入してきた。安易なカタカナ語の氾濫は、正常なコミュニケーションを妨げる社会問題とさえなっている。

一方、中国では近代以降、日本人が漢字で意訳した西洋の概念を多数、逆輸入してきたが、やまと言葉を音として取り入れた事例は、寡聞にして耳にしたことはない。中国の若者たちが今、主としてネット空間で使い始めている表音文字としての「卡哇伊」は、日中の文字文化交流史において、画期的な出来事ではないかと思う。新学期から新たな開講する「日中文化コミュニケーション」課程では、こんなところを入り口にして、若者たちとお互いの文化を見直していこうと思う。


編集部より:この記事は、汕頭大学新聞学院教授・加藤隆則氏(元読売新聞中国総局長)のブログ「独立記者の挑戦 中国でメディアを語る」2017年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、加藤氏のブログをご覧ください。