追記あり【GEPR】東芝の損失はなぜ105億円から7000億円になったのか

2017年02月15日 00:25

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東芝の損失は2月14日に正式に発表されるが、日経新聞などのメディアは「最大7000億円」と報じている。その原因は、東芝の子会社ウェスティングハウスが原発建設会社S&Wを買収したことだというが、当初「のれん代(買収による損失)は105億円」と発表されていた。それがなぜ7000億円になったのか?

この事件はまだわからないことが多いが、S&Wの買収額は2億3000万ドルなので、買収で7000億円もの損失が出ることはありえない。関係者によると、東芝の経営陣に大きな見込み違いがあったおそれが強い。その原因は、規制の強化だ。

NRC(原子力規制委員会)の規制は日本よりきびしく、建設申請から完成まで10年以上かかる。いま建設中の原発も80年代から計画が始まったが、2011年の福島事故のあと規制が強化され、工事が大幅に遅れた。WHはアメリカ国内で4基の原発を受注しているので、工事費が1基あたり1500億円以上増えたと考えられる。

しかしこのようなリスクは、東芝がWHを買収した2006年にはわかっていたはずだ。買収額は6600億円だから、7000億円を差し引くとWHの企業価値は(結果的には)ゼロだったことになるが、東芝はそのリスクを知らないで買収したと思われる。この背景には、日米の商慣習の違いがある。

日本では原発事故のようなリスクはすべて電力会社が負うので、東電は実質的な債務超過になっているが、アメリカでは原子炉の標準化が進んで、リスクをベンダーが負う固定価格契約に変化してきた。WHの原子炉AP1000(上の図)は、中国に60基輸出するなど大量生産しており、コストが「定価」を上回った損失(あるいは下回った利益)はWHが負う契約になっている。

ところが福島事故のあとNRCの規制が強化され、建設費が激増した。この損失は直接には下請けのS&Wが負うが、同社はそれをWHが負うよう求めて訴訟を起こした。その判決が昨年12月上旬に出てWHが勝訴したが、法廷の情報開示で巨額損失の存在が明らかになった。これが年末の「数千億円の損失」という発表になった。

問題は非常に複雑で、全容は2月にならないとわからないが、関係者の話では、最大の見込み違いは東芝の経営陣がアメリカのリスク負担ルールを知らなかったことにあると思われる。規制強化で工事がいくら遅れても、日本なら電力会社が損するだけでベンダーは無関係だが、アメリカではWHが(そして東芝が)損失を負担するのだ。

では今後、東芝はどうすべきか。既定方針どおり工事を続け、原発を運転すべきだ。5基はほとんど完成しており、すぐ運転に入れる原子炉もあるという。原発の建設費は、いくら膨張してもサンクコストであり、今後のキャッシュフローには関係ない。これは完成した豊洲市場に移転すべきなのと同じだ。

金融支援が取り沙汰されているが、このように損失の大部分がサンクコスト(規制強化による固定費の増加)だとすれば、事業の採算性には影響しないので、運転すれば東芝の収益も大きく改善する。したがって政投銀が融資すべきだが、国費を投入するには少なくとも私的整理は必要だろう。

追記:東芝は四半期の決算発表を1ヶ月延期し、2月14日に暫定的な数字を発表した。「原発関連の損失」が7125億円で、1500億円の債務超過になるという以上のくわしいことがわからないが、これまでの報道を総合すると、この1月25日の記事はそれほど大きく間違っていないようだ。

ポイントは固定価格契約がいつ結ばれたかだが、WSJはそのうち2基について電力会社が9億2000万ドルの賠償をWHから受けると書いている。このあと訴訟が起こり、2015年10月に電力会社が固定価格契約に変更して東芝に5億500万ドル払うことで合意したという。これが事実だとすると、東芝は1000億円近い損失を負担するのに、500億円程度で契約変更したことになる。まだ真相は不明である。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 青山学院大学非常勤講師 学術博士(慶應義塾大学)

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