トランプ大統領が27日に署名した入国一時停止7カ国はイラク、シリア、イラン、スーダン、リビア、ソマリア、イエメンだ。なぜこれらの国を選び出したか、ロジックを整合的に示すことは困難だが、共和党に根強い「テロ支援国家」概念をある程度反映しつつ、トランプ色を強めたものという印象がある。
7カ国のうち特にイランやシリアやスーダンやリビアは、2001年以後のグローバル・ジハードによるテロの首謀者を生み出した国というよりは、むしろ1980年代−90年代に反米国で、米国に対するテロを行う組織を政府として支援した、あるいは政府の部門が反米テロ活動を行ったことがある国。
これらは「テロ支援国家」として敵視されてきたが、後に転換した国も多い。代表例は米国の軍事侵攻で体制が転換したイラクである。スーダンも最近米寄りになっている。
米国の、共和党に多い、「テロ支援国家」を対象に制裁を加えるという「テロ対策」に疑問なのは、現在のテロは「国家」が首謀者ではない場合が多いことと、しかも「国家」を相手にする制裁が「国民」をまるごと対象にするものであること。
そして、国家・政府として米国に敵対している「テロ支援国家」の国民で、米国に来る人は、そもそもそういう国や政府が嫌できているので、個人としては「親米」の割合が非常に高い。そうでない人は米国に来ないから。
逆にエジプト、サウジアラビアなど政府として親米という国の国民が、自国の政府への反体制運動の流れで米国に矛先を向けるというのが、アル=カーイダに代表されるグローバル・テロリズムの流れ。パキスタンやレバノンのように社会の分断も深い(政府が弱くて、社会の中に親米勢力と反米勢力が明確に存在している)国の場合はもっと複雑。
というわけで、反米国(だったことのある)国の国民をまとめて入国禁止すると、それらの国で親米的な人たちを狙い撃ちにするような効果が出てしまう。そういうことを考えずに内輪の支持者向けに政策を実施するのがトランプ的なのだろう。
しかもこれらの「反米・テロ支援国家」は2000年代以降に転換している場合も多い。トランプ大統領の独自色が出る場面では、日本を貿易摩擦の相手国といまだに思っているように、「80年代で頭が止まっている」部分が特徴的だ。
編集部より:この記事は、池内恵氏のFacebook投稿 2017年1月29日の記事を転載させていただきました。転載を快諾された池内氏に御礼申し上げます。