皆さまは、弁護士の知り合いはいるだろうか。もし、トラブルが、今日あなたの身に降りかかる可能性が高いとしたらどうやって身を守るだろうか。
アゴラにも記事を投稿いただき、各種行政委員会委員等も歴任している、荘司雅彦氏(以下、荘司弁護士)の近著『本当にあったトンデモ法律トラブル』(幻冬舎新書)には、今日にでも降りかかるかも知れないトラブルの事例が分かりやすく紹介されている。
訴訟だけが解決の手段ではない
世の中には、突然、身に降りかかる法律トラブルが存在する。その一つに離婚問題がある。特に男性の場合は「寝耳に水」というケースが少なくない。
離婚問題で、裁判所に持ちこんでまで争うケースは、若い夫婦の場合は子の親権と養育費をめぐる争い、年配夫婦の場合は慰謝料・財産分与などの離婚給付をめぐる争いが際立っているようだ。
逆に言ってしまえば、子どももお金もない夫婦は、もめる材料がない(もめる必要もない)と荘司弁護士は語っている。子どもの問題に関しては、一方もしくは双方の親が介入してくるケースが多く見られるそうだ。
「大事な孫をあんな女(男)に任せられない」という気持ちを抱く、お舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)がたくさんいて、息子や娘が親の代理戦争をはじめる。
「子どもが幼い場合は、母親側の経済状況が悪くない限り、ほぼ母親が親権者に指定されること、養育費は客観的な算定基準で決められることを祖父母に脱明して、無益な争いを未然に防ぐことが大切でしょう。」(荘司弁護士)
「いたずらに紛争が長引くと、夫婦だけでなく子どもの健全な成育にもダメージが生じるということを、決して忘れないでくださいね。」(同)
本書が興味深いのは、協議によって解決を模索することを推奨している点である。訴訟は弁護士費用がかかる。民事の場合は地裁判決まで1年以上、上告審で高裁までいけば、さらに時間がかかる。トラブルを抱えていることは精神衛生的にも好ましくはない。
また勝訴を勝ち得たとしても、相手に払う意思がなければ踏み倒されるリスクもある。判決が確定したにもかかわらず相手側が支払いを拒否するケースが多く、法務省によれば年間約5万件の強制執行の申し立てがされている。
強制執行には多額の費用がかかる上、強制執行しても確実に取り立てができるという保証もない。その辺りの状況を鑑みれば、協議によって解決を模索する戦術も一考といえよう。
他には、年配夫婦の財産分与について(預貯金のように)金額が明確でない不勣産の価格について意見が対立することがあるようだ。裁判所に持ちこんで鑑定を申し立てるとお金がかかる。しかも、裁判所の委託する不動産鑑定とて決して正確なものではない。
「夫婦双方がそれぞれ近所の不動産業者に値段を見積もってもらって、双方の中間値くらいで折り合う方が、はるかに費用は安く済み、早期解決が見こめます。」(荘司弁護士)
不動産の客観的価格は確定しようがなく、鑑定士が100人いれば100とおりの結果が出ると言っても過言ではない。そのためこのような現象が発生する。
離婚を決意した妻の意思は固い
離婚そのものについては、妻が離婚を決意したらまず覆らないと夫は覚悟をしなければいけない。荘司弁護士は何百件という離婚事案に接してきたが、離婚意思を翻した妻は1人もいなかったようだ(翻した夫はたくさんいたとのこと)。
「ウチの女房に限ってなどと高をくくっていると、大変なことになります。給料をすべて妻に渡して、蓄えがどのぐらいあり、どの銀行にいくら預けているのかさえ知らない夫が大勢いることには、驚愕させられます。」(荘司弁護士)
「妻から離婚を宣告されて慌てて弁護士の事務所に駆けこんでも、相手の手中に入ったお金を取り戻すことはほぼ不可能と党悟しておいた方がいいでしょう。」(同)
離婚訴訟は、よほどのことがない限り、当初の予想と大幅に変わることはないようだ。離婚事件は人格非難の応酬になるので、争っている間の精神的ストレスは大変なものになる。「心身の健康という点からも、無難な落としどころで早期解決を図ることを強くお勧めします」と荘司弁護士は語っている。
さらに、人口が多い都市の弁護士の中には、とんでもない輩が少なくないようだ。弁護士の中には、「小さなこと」「小さな誤解」を大事にして事件に仕立て、その依頼を受けるという輩が少なからずいる。いざという時に慌てないためにも、信頼できる弁護士とのコネクションを構築しておきたいものである。
尾藤克之
コラムニスト