先週は図書館について二本の記事(『国会図書館が「電子図書館」になる日』『数字で見る図書館問題』)をアップした。今回はその続きで、公共図書館による貸し出しが販売に影響を与えるかを取り上げる。
「図書館が貸し出すので新刊が売れない。作家にとって死活問題だ。」という主張が、年に何回かマスメディアに取り上げられる。物知りに聞くと、1970年代からこの主張が続いているという。マスメディアの記事はリンク切れになることが多いが、産経新聞の2016年1月24日付「図書館で売れ筋の新刊本を貸し出すタイミングは?」は残っていた。
「貸し出しは購入に影響するか」という問題は、当然ながら、経済学者の興味を引く。2012年には、政策研究大学院大学の院生が統計解析して「図書館における書籍の貸出によって、売上が総計としては増加していることが分かり、貸出が売上を減少させているという主張は正確ではない」との結論を報告した。雑誌InfoCom REVIEW第68号(2017年1月31日発行)には、「公共図書館の貸出と販売との関係」という浅井明治大学教授の論文が掲載されている。浅井教授の結論も、「市場全体でみる限り、公共図書館は販売市場に大きな影響は与えていない。」であった。
10年以上も前になるが、ネット上での違法な音楽配信がCDの売り上げに悪影響を与えていると、音楽業界が大キャンペーンを張ったことがある。2009年には著作権法が改正され、違法に配信されていることを知りながら音楽をダウンロードすることは違法とされた。著作権法は2012年に再度改正され「2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金」という刑事罰が定められた。しかし、2005年には、田中慶應義塾大学助教授(当時)が、ファイル共有ソフトWinnyは音楽CDの売上枚数を減らしていないという研究結果を発表している。
違法ダウンロードについて音楽業界から最近は声が上がらない。確かにCD売り上げはその後も減少を続けたが、コンサートやフェスといったイベント市場が拡大している。コンサートプロモーターズ協会によれば、2005年のイベント市場規模1049億円が、2015年には3186億円に伸びたという。定額配信で浴びるように音楽を聴ける状況が生まれ、その結果、人々はかえって生演奏に関心を高めたのだ。
出版販売市場が縮小の一途をたどっているのは事実である。情報メディア白書によれば、ピークの1996年には2兆6564億円だった出版市場は、2014年には1兆6065億円まで減少した。しかし、二本の論文が示すように公共図書館の貸し出しは作家の生活に影響しない。貸出規制を求めるのではなく、音楽イベントのような代わりに稼げる方法を作り上げていく必要がある。