「国立国会図書館電子図書館構想」は1998年に策定された。しかし、当時の著作権法では著者の許諾が前提であったため、デジタル化は進捗しなかった。2010年に改正著作権法が施行され、資料の保存を目的としたデジタル化は、国立国会図書館に限って著者の許諾なくできるようになった。これを受けて昭和前期の図書等のデジタル化が開始された。2013年に再度、改正著作権法が施行され、国立国会図書館でデジタル化した資料のうち入手困難な資料は他の図書館に送信できるようになった。
デジタル化はどこまで進んでいるのか。国会図書館は2017年1月時点のデータを公表しており、図書97万点・雑誌127万点など合計262万点のデジタル化が完了している。そのうちネットで公開されている資料は50万点、全国の図書館に送信できる資料が149万点、国会図書館内だけで閲覧できる資料が62万点である。『国立国会図書館年報平成27年度』によると2015年3月末での図書の所蔵数は1075万点なので、およそ1割のデジタル化が完了している計算になる。
地元図書館が送信サービスに参加していれば、デジタル化資料は地元で閲覧できる。たとえば、北海道では道立図書館のほか、旭川・網走・石狩・帯広・北見・釧路・札幌・佐呂間・新ひだか・苫小牧・登別・函館・美幌の市町立図書館で利用可能である。わざわざ航空運賃を払って東京に行かなくても閲覧できるのは、デジタル化の大きな効果である。北海道はいわば「国会図書館空白地帯」であったが、その空白が蔵書の1割とはいえ埋められ始めている。
他国には電子書籍を送信する「電子図書館」の試みがすでに存在する。米国のNPO団体Worldreaderはアフリカ諸国を中心に「電子図書館」を提供する事業を行っている。ビルゲイツ財団が資金を提供し、アマゾンが寄贈したKindleは途上国の子供たちに配布された。NPOサイトには子供たちが電子書籍を読んでいる写真があり、先日アクセスした際には45,904タイトルの電子書籍を提供、ひと月に477,367人が読書、2010年以来5,494,713人が読書といった数値が誇らしげに掲載されていた。
途上国では図書館の整備も遅れているが、電子書籍での読書はそれを補う貴重な機会になっている。これらの国々では「読書、すなわち電子書籍を読むこと」「図書館、すなわち電子図書館」と定義されるようになるだろう。固定電話の普及が遅れた国々で「電話、すなわち携帯電話」と理解されているのと同じように。
「電子図書館」が途上国の図書館空白地帯を埋めるように、「国会図書館空白地帯」も蔵書のデジタル化をさらに進めることで埋められていく。構想から20年で蔵書の1割がデジタル化という速度は遅すぎる。国会図書館のデジタル化事業は紙形式の書籍を1ページずつスキャンする作業の積み重ねであって、時間と費用がかかるのが理解できないわけではないが、国民の利便を向上するためには加速するのがよい。