MBOとプレミアム(上)経営陣が安く買い叩くは本当? 株価データに見る真実 

2017年02月04日 06:00

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MBO(マネジメントバイアウト=経営陣による買収)が話題になっている。ファンドによる上場企業の非公開化が再び活発になり始めているほか、MBO後に再上場するケースも後を絶たない。MBOは経営陣が買収価格を操作できるから、株主は十分なプレミアムを享受できず不利益を受けやすいとも言われるが、本当だろうか。ストライクのM&Aコンサルタント、井上美沙氏が株価データを元に検証する。

1月1日、東京証券取引所が公募していたMBO後の再上場時における上場審査に関するパブリックコメントが締め切られた。

株主の利益を最大化する義務を負う経営陣が買付者として参画し、会社を買収するMBO。その構図は否応なしに利益相反構造を内包している。加えて上場企業においては、IR(投資家向け広報)やプレスリリースでしか経営を関知できない一般株主と、ともすれば業績情報さえ操作できてしまう立場の経営陣には情報の非対称性もある。

かつ、上場企業においては非公開化を伴うMBOがほとんどであり、二段階買付によるスクイーズアウト(全部取得条項付き種類株式や株式交換を利用して少数株主を締め出す手続き)を伴う場合、MBOに反対する株主の立場は弱いものとなりやすい……と言った理由から、かねてより世間はMBOにはやや厳しい目を向けており、政府も注意を払っていたようだ。近年は、MBOで非公開化をした会社が再度上場を果たすケースが増えて来た為に冒頭のパブリックコメントの公募に至る。

一般的にも、MBOにおいては経営陣が強く、安値で会社を買い叩くと言った印象を抱いている人は少なくないだろう。

果たして本当にそうなのか。

経営陣の義務は株主の利益を最大化することである。株主の利益を見るのに一番わかりやすい指標はやはり株価であろう。TOBにおけるプレミアムという観点からMBOを分析してみる。

<グラフ1>

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グラフ1は、MBOにおけるTOB、TOB全件、MBO以外のTOBの平均プレミアムの推移を比較したものである。プレミアムは公表日前3カ月平均株価に対するものを採用しており、以下の文章における「プレミアム」は一貫して3カ月平均株価に対するプレミアムを指すので注意されたい。

グラフ1であるが、少々出来すぎているほどに、MBOにおけるプレミアムは群を抜いている。

<グラフ2>

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グラフ2は、グラフ1よりディスカウントディールを除外したものだ。

ディスカウントディールとはマイナスプレミアムがつくTOBを指す。例えば、あらかじめ話をつけた特定の大株主から一定数の株式を買付ける目的でTOBを行う場合、一般株主が応募してくると買付比率が按分されてしまい、大株主は目標の株数を売ることが出来ない。これを防ぐために一般株主が応募しないであろうマイナスプレミアムを付けた価格で買付を行うのがディスカウントディールだ。

ディスカウントディールではある程度上場を維持することが前提となるため、非公開化を伴うTOBの多いMBOと比較するならこれは除外しておく方がフェアかもしれない。さて、このディスカウントディールを除外したプレミアム平均値では、2012年~2014年、MBOの平均値よりもTOB全件/MBO以外のTOBの平均値が上回る。

MBOの平均プレミアム、TOBを上回る

これらを詳しく読み解いて行く。

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結論から言おう。推移はさておき、期間を問わず全件の平均値で言うと、ディスカウントディールを除外してもしなくても、MBOにおけるプレミアム平均はTOB全件/MBO以外のTOBそれぞれの平均値を上回っている。推移に言及するとしたら、かなり波があるTOB全件/MBO以外のTOBに対して、MBOのプレミアム平均値は一貫して30%以上を推移しているという点だろうか。

ディスカウントディール除外での2012~2014年について見て行きたい。

2012年、2013年は他の年と比べてもTOBにおけるプレミアム平均値は高い。

2012年はTOB全般においては油空圧機器メーカーのTAIYOやサンケイビル等、100%を超えるプレミアムがついたディールが平均値を押し上げているのに加え、全体的に高い水準でのプレミアムがついていた。一方で、MBOは30%台が3件、40%台が2件、50%、60%、70%が各1件ずつ。安定的ではあるのだが、平均値を引き上げるディールはない。

2013年も引き続きTOBでは調剤薬局のオストジャパンや、エンジニアリング会社の東洋製作所(現三菱重工冷熱)等100%超のプレミアムがある上に、調剤薬局、健康食品などを手掛けるトータル・メディカルサービスのプレミアムは206%と大変高水準だった。

MBOでは、スルガ銀行によりデットエクイティスワップ(債務の株式化=DES)を含めた再生支援を受けていた天龍木材が17.19%、かねてより業績と株価が低迷し続けていた金融機関向けシステムのシンプレクスホールディングスが15.47%。まれに見るプレミアムの低さだが、9件中2件がこれでは平均値も下がる。尚、シンプレクスHDの株価低迷は経営陣の業績操作等でなさそうだ。2005年に東証一部に市場変更した際には6万円(調整後)にも迫り、2006年には10万円をも超えた株価が2012年頃には2万円台に低迷していた。MBO手前では4万円足らずまで値を戻している。

2014年はわずか4件しかないMBOのプレミアムがいずれも26.9%~37.6%と無難な水準に収まっている。パッとしない数字ではあるものの、この26.9%という数字でさえも、2006年のTOB全件/MBO以外のTOBの平均値を上回っていることを思えば、決して低すぎるラインではないだろう。ちなみに同年のMBO以外のTOBでは、保険代理店を運営するウェブクルーの16.34%やSBIライフリビングの21.87%等、前述26.9%を下回るものも複数ある。

ゆえに、2012年~2014年の数値を以てMBOのプレミアムは低いということは難しそうだ。

MBO、上場廃止前でもプレミアム

ちなみに、対象年内のMBOにおいてディスカウントディールはわずか一件のみ存在している。2012年の営業・販売支援のセレブリックスのMBOのプレミアムはマイナス7.5%、一応付け加えておくならば公表日ベースでは6.2%である。何故こんなにもプレミアムが低いのかと言うと、セレブリックスは2期続けて億単位の純損失を計上し、債務超過に陥った為、上場廃止も秒読みだった。経営陣は株主に投資回収の機会を与える為にMBOを行ったという背景だ。放っておけば紙切れになる株式に、少なくとも公表日時点ではプレミアムが付いていたのだから、随分と良心的な対応である。

裏を返せばこの事例から、MBOで非公開化を前提に一般株主から株を集めようとする場合、上場廃止も間近のこんな状況になってさえプレミアムを支払わなければ応募がないとも言うことが出来る。

冒頭、「経営陣が会社を安く買い叩く」というMBOの一般的なイメージに疑問を呈した。実際に、経営陣の立場をもってすればそれは不可能ではないだろう。しかしながら、世には法があり、株主も弱い立場を許容して諦めるほど甘くない。

文:株式会社ストライク 井上 美沙
編集:M&A Online編集部


アゴラ編集部より:この記事は「M&A Online」2017年1月31日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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