韓国の救いなき「反日ポピュリズム」

池田 信夫


朴大統領の辞任表明を受けた韓国の大統領選挙は元国連事務総長の潘基文氏が撤退し、「反日・親北朝鮮」を売り物にする左翼系の文在寅氏が勝つ見通しが強まった。こんな精神的途上国を相手にしてもしょうがないが、なぜこういうデマゴーグが毎度出てくるのかを理解しておく必要はある。

朝鮮半島は中国文明の周辺で、古代からアイデンティティ・クライシスに悩んできた。儒教文化圏ということになっているが、儒教は宗教ではないので、救済の論理をもっていない。内面的な救いは他に求めるしかなく、それは近代以降はキリスト教だった。その信徒は人口の約30%で、韓国で最大の宗教である。

李氏朝鮮では今の北朝鮮のような極貧状態が500年以上続き、人口は600万人前後でほとんど増えなかった。儒教は中国では人口の1%以下の特権階級の道徳だったが、それを輸入した朝鮮では人口の50%以上が公務員(両班)になり、何も生産しなかったからだ。

近代以降は清とロシアと日本に踏みにじられて独立を失い、1960年代まで世界の最貧国だった。日本からの経済援助や技術移転で成長したが、それを認めたくないので「日帝36年」の神話をつくり、日本を仮想敵にして南北朝鮮のアイデンティティを作り出した。こういう救いのない状況は、日本人にはわからない。

このように異質な敵を排除して味方の同質性を作り出すのはカール・シュミットの理論だが、1930年代にはファシズムと呼ばれ、ソ連では社会主義と呼ばれた。今はポピュリズムと呼ばれるが、その共通点は次の3つだ:

  • 共通の敵という記号をつくる
  • 味方を同質化するアイデンティティを生み出す
  • ポピュリズムはローカルな現象である

ヒトラーの敵視した「ユダヤ人」の定義は不明だったが、それは悪を示す記号なので中身は何でもよかった。彼も最初はカリスマではなく、貧乏な画家のなりそこないだった。ナチスはドイツ至上主義のローカルな党だったが、だからこそ民族的な同質性を作り出した。

天才的カリスマは必要条件ではない。日本の「ファシズム」には、カリスマがまったくいなかった。共産党などの敵を弾圧した根拠は、日本人にもよくわからないローカルな「国体」だった。韓国の反日ポピュリズムもローカルな現象だが、最悪なのは彼らに敵視されている日本政府の背後から弾を撃つ朝日新聞のような「隠れファシスト」である。