ドイツの与党第1党、「キリスト教民主同盟」(CDU)の党首、アンゲラ・メルケル首相は6日、バイエルン州の姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)の党首、ホルスト・ゼーホーファー州知事と笑顔を見せながら記者会見に姿を見せた。9月24日実施予定の次期総選挙向けのデモンストレーションだ。両党は同日、メルケル首相を両党共通の首相候補者とすることで一致し、ミュンヘンの記者会見で発表した。
両党党首の関係は2015年の難民・移民殺到の年から今日まで険悪な関係が続いてきたことは周知の事実だ。100万人に及ぶ難民の殺到に直接対処しなければならないバイエルン州はメルケル首相の“難民ウエルカム政策”を批判し、その受け入れ政策の修正を強く要求してきた経緯がある。
メルケル首相は国内でイスラム過激派テロ事件に直面、国境監視の強化、治安関係法案の強化などに乗り出したが、バイエルン側が要求する難民受け入れ最上限の設定に対しては今日まで拒否し続けてきた。ゼーホーファー党首は2015年のCSU党大会ではメルケル首相を正面から批判し、昨年のCDU党大会には欠席するなど、両党トップの関係は最悪の状況が続いてきた。
その両党党首がカメラマンたちの前で笑顔を見せたのだ。伝統的政党の友好関係の復興というわけではないだろう。実際、メルケル首相はこの段階になっても難民の受け入れ最上限の設定には強く反対している。にもかかわらず、両党首は笑顔を見せ、両党の結束を懸命にアピールした。両党はミュンヘンの両党会合では今夏(7月)までに両党の政府プログラムを作成することで急遽一致している。
そこでCDUとCSUの再結束の背景を見ていくと、両党を結束に強いたのは、政治信条や難民政策で変化や修正があったからではない。“あのシュルツ氏”の登場だ。メルケル連立政権のパートナー政党、次期総選挙のライバル政党、社会民主党(SPD)の新党首であり、次期総選挙の党筆頭候補者としてメルケル首相の4選を阻むために出馬したミスター・ヨーロッパ、マルティン・シュルツ氏(61)だ。
複数の世論調査によると、シュルツ氏のSPD支持率は予想外に伸びてきているのだ。最新の世論調査INSAによると、シュルツ氏のSPDが支持率31%でCDU/CSUの30%を上回った、という結果が出ているほどだ。
シュルツ氏についてはこのコラム欄でも紹介済みだ(「メルケル首相の4選阻止は可能か」2017年1月29日参考)。同氏は過去20年余り、ブリュッセルを拠点に政治活動をしていた欧州政治家だ。過去5年間は欧州議会議長として“ミスター・ヨーロッパ”と呼ばれる政治家だ。それが今年に入りベルリン政界に復帰した。
同氏は一時、今年2月の連邦大統領選に出馬するフランク・ヴァルター・シュタインマイヤー外相の後任として就任するものと予想されていたが、ガブリエル党首が筆頭候補者のポストをシュルツ氏に譲る一方、党首職も同氏に移譲した。その背景には、シュルツ氏ならば「ひょっとしたらメルケル首相を破ることができるのではないか」といった党内外の期待の声が高まったことがある。
「世界で最も影響力を有する女性」の常連メルケル首相はシュルツ氏の台頭に初めて政権の危機を感じ出したはずだ。難民問題でCSUと対立している時ではない。これが両党再結束のデモンストレーションとなったのだろう。メルケル首相とゼーホーファー氏が恐れているシナリオはシュルツ氏が率いるSPDと「緑の党」の左派連立政権の発足だ。
連邦議会選までまだ7カ月間余りある。SPDにとってもシュルツ効果がいつまで続くかは分からない。その上、ドイツの国民経済は欧州連合(EU)の中でも最も安定成長を続けている。メルケル首相4選に有利な材料も少なくない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年2月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。