バレンタイン・デー直前、せき止められた思いが溢れたのなら勇み足ですみます。しかし、インフラに欠損があったなら大惨事です。
高さ245mと全米一の高さを誇るカリフォルニア州オロビル・ダムで2月10日、大雨により最大容量の96%にまで上昇しました。水位を低下させるべく、カリフォルニア州資源局は1968年に完成して以来初の緊急用放水路の使用を決定。しかし老朽化が仇となり放水路が損傷したため、洪水リスクへの警戒から18.8万人が緊急避難を余儀なくされました。
オロビル・ダムの一件でお分かりの通り、米国のインフラは悲鳴を上げています。全米土木学会(ASCE)が4年毎に公表するインフラ設備を評価するレポートを公表するなか、2013年版の総評価はD+でした。A(極めて良好)、B(良好)、C(普通)、D(不良)、F(欠陥)ですから、Dにプラスなら「極めて不良」と解釈できます。ちなみに、2017年版のレポートはまもなく公表される予定です。
ASCEの評価一覧は、こちら。
1993年からガソリン税が1ガロン当たり18.4ドルで据え置きとなっていることが一因で歳入が伸び悩み、補修工事が遅れに遅れインフラ整備不良を招いています。
トランプ米大統領が10年間で1兆ドルという空前のインフラ投資拡大を公約に掲げた理由は、何も雇用創出や4%成長を目指すためだけではありません。
そこへ、こんなニュースが飛び込んできました。全米で56,007基、1日当たりの自動車交通量にして1億8,500万回もの橋が整備不良だというのです。全体の10%近くに相当するとあって、末恐ろしいですね。米国道路交通建設協会(ARTBA)が明らかにしたところ、ニューヨーク州のクイーンズとブロンクスをつなぐスロッグス・ネック・ブリッジをはじめワシントンD.C.のアーリントン・メモリアル・ブリッジ、コネチカット州のヤンキー・ドゥードル・ブリッジなど交通量が格段に多い橋まで含まれています。
全米に建設された橋のうち173,919基、28.3%が完成から50年以上というだけに、経年劣化の著しさが伺えます。さらに州間をつなぐ13,000基は建て替え、拡張など大規模な再建が必要とあって、いつ大規模な事故が襲ってもおかしくありません、
州別ではアイオワ州が最も深刻で老朽化した橋の数は4,968基、ワースト2位はペンシルベニア州で4,506基、3位はオクラホマ州で3,460基、4位はミズーリ州で3,195基、5位はネブラスカ州で2,361基と続きます。2016年米大統領選挙では、この5州全てにおいてトランプ氏を選出していたのですから興味深いですよね。
整備不良の橋の割合が最悪の州はロードアイランド州で25%、次いでペンシルベニア州が21%、アイオワ州とサウスダコタ州は20%で並び、ウェスト・バージニア州は17%、ネブラスカ州やノースダコタ州、オクラホマ州は15%です。これらのうち、トランプ氏が敗北した州はロードアイランド州のみです。
問題は、インフラ投資拡大で共和党内が一致団結できるかどうか。医療保険制度改革(オバマケア)撤廃・代替では早速、米下院の保守強硬派閥フリーダム・コーカスが迅速なオバマケア撤廃を求め共和党主流派・穏健派に噛み付く状況。共和党側はオバマケアの人気や女性の反発もあり、2018年の中間選挙を控え新制度ヘ移行できないまま葬り去ることに相当慎重です。インフラ投資でもフリーダム・コーカスが火種となって共和党内で亀裂が生じる恐れがあり、修繕にはまだまだ時間が掛かる気配が漂います。
(カバー写真:Patrick Rasenberg/Flickr)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2017年2月15日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。