『電通と博報堂は何をしているのか』

2017年03月26日 11:30

中川淳一郎の最新作『電通と博報堂は何をしているのか』(星海社新書)を読んだ。電通過労自死事件で大手広告代理店が注目されている今日このごろ。元社員であり、現在も仕事で広告業界との接点がある者の渾身のレポートである。半径5メートル以内で見聞きしたことを中心に、あくまで持論を展開しつくす彼の本づくりのメソッドはますます円熟味を増していると感じた。

前書きの最後に、こうある。

本書は、元博報堂社員の筆者自らの経験と、十数名の電通・博報堂現役社員に取材をして得た情報をもとに書き上げた「業界案内」であり「会社案内」である。

たしかに、本書は「業界案内」「会社案内」たり得ている。企業側の論理で作られる会社案内のパンフレットや、採用ホームページとは違い、関係者たちの生々しい証言が魅力である。いや、それよりもOB・OG訪問の実況中継とも言ったほうが近いといえるだろう。

中川淳一郎は、入社して間もない頃、上司にホイチョイ・プロダクションズ的な世界は本当にあるのかと聞いたという。上司は80%くらいは本当だと語った。実際はどうだったのか。それを明らかにしていくのが本書である。

どんな大学から採用しているのか、コネ入社の実態、広告代理店ならではの会議の進め方などがよく理解できる。私が就活をしていた約20年前にも話題となった、「電通と博報堂の違い」なども、組織風土の違いを中心によく理解できるものになっているといえる。彼が自身のTwitterや、各種記事において展開してきた「電通陰謀論」などの真偽についても、ページを割いており、分かりやすい。よく言われる「革靴でビールを飲まされた」的な都市伝説についても、紹介されている。「脱博者(博報堂を辞めた者のこと)」などの表現も。

もっとも、組織風土にスポットを当てているのは良いのだが、何でもそれを論拠に押し切っている部分があり(それが本書の魅力ではあるが)。そこがやや残念だった。

私自身、近い業界に勤めており。また、これらの業界との接点もあり、やや新鮮味にはかけていたのは正直なところである。いや、惜しいのは、ヒアリングした関係者の偏りによるものなのか、あくまで組織風土にスポットをあてたからなのか、「”今の”電通・博報堂は何をしているのか?」という点に関する不十分だったことだ。デジタルに関する取り組み、ラボ的なものなど、新しい取り組みの話をより聞きたかったし、若手社員の声もより聞きたかった。まあ、このあたりは、電博のホームページを見ればいいのだが。

リクルートという幻想 (中公新書ラクレ)
常見 陽平
中央公論新社
2014-09-09


まあ、このあたりは、私が『リクルートという幻想』を書いた時と同じで。企業は変化し続けており。この本自体が幻想というご批判を頂いてしまったわけで。

関係者、OB・OG含めて、議論が起こることだろう。まあ、最近は電博ともこの手のことをSNSなどで発信しにくいそうなのだが。その過程で、電博や広告代理店のリアルが理解されることだろう。


もっとも、彼の博報堂と、業界に対する愛が伝わる本であり。電博や業界やその周辺を面白がっているようで、愛しているんだなあと思った次第である。徹頭徹尾中川節。彼ならではの「ああ、言っちゃった・・・」という空気が漂う本なので、ぜひ手にとってもらいたい。広告業界を目指す学生にとっては必読の書だろう。


なお、電通過労自死事件に関しては私も本書で一章かけて論じている。正直、この事件に関する考察ではまったく負けていないと自負しているので、ぜひ手にとって頂きたい。

いよいよ彼や、赤木智弘さん、おおたとしまささんに登壇してもらう、3月28日(火)の「働き方改革に物申す院内集会」の開催が迫ってきた。大手広告代理店の働き方と、それを変えることは可能かという点について、彼とたっぷり語り合いたいと思う。

しかし、中川くん、お互い大学を卒業して20年ですな。それぞれ選んだ、社会の入り口、最初の1社っていい選択だったと思うんだよね。


編集部より:この記事は常見陽平氏のブログ「陽平ドットコム~試みの水平線~」2017年3月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。

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常見 陽平
千葉商科大学国際教養学部専任講師

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