保育士の長時間労働をやめると、何が起きるか

駒崎 弘樹

保育士といえば長時間労働で、持ち帰り残業当たり前。多くはサビ残です。

業界全体として、そういう慣行があって、「給料低いし、キツイし」ということで、保育士養成校を卒業しても、都内だと半分くらいしか保育園で勤めなかったりするんです。

私はこういう状況を本当に良くないと思っていて、なんとか人間らしい働き方を保育士もできるように、「保育士の働き方革命」を進めてきました。

その甲斐あって、私が所属するNPOフローレンスの運営する「おうち保育園」では、残業時間を月平均7時間、1日平均は約20分程度にすることができました。

こんな風に、保育士たちに時間を「返す」ことをしてみると、何が起きたでしょうか。

業務時間外で若年ママの支援

その一つが、こちらのプロジェクト。 塚原 萌香 (もえか) さんという、新卒入社した保育士が、10代で妊娠したママ達をサポートする「もえかん家」という取り組みをアフター6で始めました。ひとり親家庭で育った萌香さんが、自分の原体験をもとに立ち上げたプロジェクトです。

https://camp-fire.jp/projects/view/21597

高校に行けなくなる、彼氏にも逃げられてしまった、一人で子育てをしなくてはいけない、という1020代のシングルマザー。

そんな彼女達を、もえかさんたちは、古民家を借りて一緒に食事を食べながら、進路や就職のことを話し合っています。まさに行政ではなかなかしづらい、温度感のある伴走支援です。

サポートの中で、高校を中退したママにボランティアスタッフの助産師が「こんなに子どもに愛情を注げていてすごい。助産師や看護師が向いてるんじゃない?」と言ったその一言がきっかけで、「私初めて夢ができた、看護師になる!」と、その高校生ママが夢を描くことができていったそうです。

時間を返せば、社会に貢献していく

これ、特に「時間外に地域でのボランティア活動を頑張れ!」とか、フローレンスが指示したわけじゃないんです。彼女がピーシーズというNPOに関わって、そこでコミュニティ・ユース・ワーカーの養成講座を受けて、そこから自分で動き出したんですね。

私たちが組織でやったことはほとんどないんですが、「やらなかったこと」は、長時間労働で彼女の時間を夜遅くまで奪わなかったこと、です。それによって、外に出て学んで、そしてソーシャルワークを実践しよう、と思えたのかもしれないと思います。

もともと、保育士さんというのは、子ども達が好きで、人に奉仕することを厭わない性格の人が多いです。だから、彼女達にもっと時間を返していけば、自分から学んでいくし、業務外も子ども達のために何かやろう、とするんじゃないかな、と思うのです。

保育士の働き方革命を

地域社会には、ちょっとした支えの手を必要とする人は、いっぱいいます。それを全部行政がやることは、多分不可能で、いろんな人たちが地域に参入して言って、自らがセーフティネットになっていかないといけません。

しかし、多くの人たちは、企業社会、職場にロックオンされていて、社会活動にコミットする時間がありません。企業は労働者の善意にフリーライドする形で、労働者の時間を過剰に分捕り、そして彼らが地域社会に関わる機会を失わせています。

それが我々の地域社会の力を、先細りさせ、セーフティネットをスカスカにし、こぼれ落ちる人々を増やすことにつながっています。

キツイ保育士の仕事を是正し、保育士を増やしていく、という文脈でも、もちろん長時間労働の是正が必要でしょう。いわばマイナスをゼロにする、という意味でもそれは絶対にやらないといけません。

しかしそれだけでなく、保育士という子どものプロ達が自らの時間を取り戻し、保育園の外の社会にもっと出ていくことができたら、もっと社会問題の解決を加速させられるに違いありません。地域の中で泣いている子どもや若者、厳しい環境にある親達に、保育園という枠を超えて関わり合えたら、保育士の持つ潜在能力を、さらに社会に生かしていくことになるでしょう。

もえかさんは、そんな保育士の持つ可能性を、証明してくれているんじゃないかな、と思います。

もえかん家のプロジェクトページ


編集部より:この記事は、認定NPO法人フローレンス代表理事、駒崎弘樹氏のブログ 2017年4月3日の投稿を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は駒崎弘樹BLOGをご覧ください。