“ユダヤ理論”とは世界一ドライで利にかなったやり方

写真は立川氏。Movie Iwjより引用。

「ユダヤ人」と聞いてどのような印象を持つだろうか。「非常に頭が良い」「勤勉で真面目である」「金儲けが上手い」「合理主義」など様々なイメージがあるに違いない。では、彼らの仕事や思考ついてどこまで知っているだろうか。

今回は事業家でIT会社を経営する、立川光昭(以下、立川氏)の近著ユダヤから学んだモノの売り方』(秀和システム)を紹介したい。ユダヤ系の商社に勤務した経験のある立川氏がユダヤ人の仕事振りを詳細に分析している点が興味深い。本書はアゴラ出版道場でもお世話になっている、秀和システムの田中氏が編集を担当している。

求められるのはスペシャリスト

――ユダヤ系企業と日系企業の大きく異なる点。それは「権限の与え方」だと、立川氏は次のように答えている。

「結果を出した者がとにかく偉い。結果を出した者は、人と違った何かを持っているのだから、その人の言うことを、みんなで聞くようにしろという考え方が根付いていました。結果を出した者が優先。遠慮もなければ、『上を立てる』といった風潮もない。このドライさが彼らの仕事や組織に対する考え方でした。」(立川氏)

「日本人というのは、上の立場の人間をとにかく立てる文化だと思います。だから尊敬語という表現がある。そんな文化ですから、日本人は上に無条件で従ってしまう民族だと思います。」(同)

――これは、彼らの判断基準や意思決定プロセスを知るとわかりやすい。

「日本人の場合、教育であれば、先生は絶対的に『偉い人』であり、教科書をつくった人は『間違いのない人』なので、中身を疑ったりもしないでしょう。ユダヤ人はその真逆です。最初から他人の考えは疑ってかかるし、教科書に書かれていることだってそのまま信じたりはしません。」(立川氏)

「彼らはテストなどでも、平均的にいい点を取ろうなどと考えません。たった1教科でも抜きんでたものがあれば、それを伸ばして圧倒的な有利に立とうと考えます。優秀な大学を出ようが、教養にあふれていようが、重んじられるのは1つの能力に優れていることなのです。」(同)

日本人の感覚では通用しない

――そこでは、常識にとらわれない価値観がありそうだ。

「彼らが私を重んじてくれたのは、民族の違いに関係なく、他の人間にない独特なビジネスセンスを持っていると認めてくれたからでしょう。この考え方は、日本人ももっと参考にするべきではないでしょうか。ただ、彼らのドライさには、日本人としてついていけないところもありました。」(立川氏)

「お世話になったお客さんに、『先日は、すみませんでした。お世話になりました』という挨拶をしたことがありました。これを聞いた会社の社長に、私は呼び出され怒られたのです。『すみませんとは謝罪の言葉だろう? 君は何かのミスをしたのか?』。日本流の挨拶だと説明しても聞く耳を持ちません。」(同)

――そして次のような展開が待っていた。

「『つけこまれるから必要のない謝罪はするな』と突っぱねられました。業務上のミスが関連業者との間に発生したときも大変でした。こちらの手違いで見積金額以上にコストがかかり、業者に少しの損失が生まれてしまいました。このとき先方は『いいですよ、このくらいなら気にしないでください』と、損失分を大目に見てくれたのです。」(立川氏)

「今度は相手の見積りミスで、私たちに同じくらいの損失が出てしまったのです。『今回の分は気にしないでください』と、私は気を配りました。しかし社長からは『君は、次の機会に自分が損失をカバーしますとでも約束したのか? 賄賂でももらっているんじゃないのか?』。さすがにこのときは社長と大ゲンカになりました。」(同)

義理や人情は通じない相手

――彼らには、日本的な義理や人情が通じないケースが多かった。しかし、義理や人情は通じなくとも、家族や仲間、同族意識が無いわけではない。これについてはどのように考えているのだろうか。

「もちろんユダヤ人だって家族や仲間を大切にするし、同族意識もある程度は持っています。けれどもビジネスの相手に対しては、約束や契約を交わしたかが優先事項であり、恩を受けたからといって、それを返すことは範疇から外れるのです。日本でビジネスをするには、そういった考え方がかなりやりにくいと感じたのも事実です。」(立川氏)

――結果を出した人間に権限を与えて登用するのがユダヤ的発想なら、とにかく何でも上にならえの日本人には学ぶところが大きい。ユダヤ人の仕事振りを知りたい人には参考になる1冊である。

尾藤克之
コラムニスト

<アゴラ研究所からお知らせ>
―2017年5月6日に開講しました―

第2回アゴラ出版道場は、5月6日(土)に開講しました(隔週土曜、全4回講義)。
次回の出版道場に、1年前にトランプ勝利を予言した、渡瀬裕哉氏が登壇」。