「権利能力」とは、私法上の権利・義務の帰属主体となり得る資格のことです。現行法上は、自然人と法人にしか認められていません。
私法上の権利・義務の帰属主体というのは、ざっくばらんに言ってしまえば、他の権利能力者との取引を単独で行うことができたり、土地等の所有権者になることのできることを指します。
自然人はもちろんのこと、法人も「〇〇株式会社」という名義で取引ができますし、「〇〇株式会社」名義の土地を所有することができます。契約書等には「〇〇株式会社 代表取締役山田太郎」などと記名捺印がされますが、主体は「〇〇株式会社」であって「山田太郎」さんではありません。
そこで、民法を改正して、AIにも法人のように「権利能力」を認めてはどうかと考えてみました。
今考えられる最大のメリットとして、権利能力が認められればAI単独で後見人になることができるという点です。
後見人というのは、未成年者や正常な判断能力を失った高齢者の(法定)代理人として単独で取引行為等を行う人を指します。
判断能力のない(未成年者や高齢者)本人に変わって、本人の財産を売却して本人の生活費に充てるというような法律行為ができるのです。取引主体はあくまで後見人ですが、その法律効果が本人に帰属するという「代理制度」の一種です。
代理制度について説明すると煩雑になるので省略しますが、最も重要な点は後見人に就任するには「権利能力」が必要だということです。「権利能力」がないと単独で取引行為ができないので、(未成年者や高齢者)本人の財産を使って本人のために食料品を買うという売買契約すらできません。
昨今、判断能力を失った高齢者の後見人(成年後見人)に選任された弁護士等が、本人の財産を横領する事件が頻発しています。後見監督人を付したり信託制度の利用を条件にするなど不正を防ぐ努力がなされてはいますが、同種の事件はうなぎ登りに増加しているのです。弁護士大増員の影響等で「貧すれば鈍す」という輩が増えたのでしょう。
高齢者の親族等が「おかしい」と気付いて事件が発覚することが多いので、親族と疎遠であったり親族がいない独居老人が増えれば、同種の犯行はますます増加すると予想されます。
もし、本人のための取引行為や財産の管理をAIが遂行することができれば、不正の入り込む余地がなくなるので本人にとって一番安心です。そのためには、AIが単独で私法上の取引等ができるようにしなければなりません。つまり「権利能力」を付与する必要があるのです。
AIに「権利能力」が付与されれば、近未来的にはAIが単独で働いて給与や報酬を得て所得税や住民税を納める時代がやって来るかもしれません。
人間が「仕事を奪われる」と恐れる必要はありません。AIが納めた税収を原資として高額なベーシック・インカムを受ければいいのです。
AIは生産性が人間よりも遥かに高い上、メインテナンスコストは限られています。それを斟酌すれば、一人月50万円くらいのベーシック・インカムが受けられるかもしれません。それ以上稼ぎたければ働けばいいのです。
かつての奴隷制度を彷彿させますが、「鉄腕アトム」の世界のように怒ったAIが人間に対して反乱を起こす危険はなさそうです。現在考えられているAIには「怒り」や「反逆」という感情は入らないようですから。
現在、高齢者等が直面している大問題から、突如として「人間が遊び暮らせる世界」という夢物語に飛躍してしまいました(笑)。いずれにも共通していることは、AIに「権利能力」を付与することが大前提だということです。
編集部より:このブログは弁護士、荘司雅彦氏のブログ「荘司雅彦の最終弁論」2017年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は荘司氏のブログをご覧ください。