豪「枢機卿」の性犯罪容疑が再浮上

いよいよ捜査当局の手が本丸に迫ってきた。探偵小説ならばそんな表現がピッタリするかもしれない。オーストラリアの「聖職者性犯罪調査王立委員会」(2013年設置)は同国のローマ・カトリック教会最高指導者であったジョージ・ぺル枢機卿(75)の性犯罪容疑に関心を向けてきた。

▲未成年者への性的虐待容疑を受けるペル枢機卿(ウィキぺディアから)

▲未成年者への性的虐待容疑を受けるペル枢機卿(ウィキぺディアから)

今回の調査で衝撃的なのは、最高指導者の性犯罪の隠蔽問題ではなく、枢機卿自身が犯した性犯罪容疑が対象となっていることだ。同国ビクトリア州検察局はペル枢機卿自身の性犯罪容疑で調査を開始したと明らかにしている。バチカン放送は17日、大きく報じた。

ペル枢機卿はフランシスコ法王の側近の1人で2014年発足したバチカンの財務局長官を務める。その枢機卿がオーストラリア教会の最高指導者時代、未成年者に性的虐待を犯していた、という容疑だ。
枢機卿自身は、「自分は全く関係していない。中傷だ」と無罪を主張する一方、「捜査には可能な限り協力する」と述べている。それに対し、枢機卿に性的虐待を受けたという被害者が出てきて生々しい証言をしているのだ。

ジャーナリストのルイス・ミリガン女史は新しい本の中で、「1990年代、メルボルン大司教就任後、ペル枢機卿は2人の合唱隊の少年に性的虐待を行った」と書いている。同女史によると、2人の少年の1人は2014年、麻薬中毒で死去した。2人目の犠牲者がジャーナリストに、「ティーンエイジャー時代にペル枢機卿に性的虐待を受けた」と証言したという。ペル枢機卿の事務局は15日、「全くの偽証だ」と否定したという。

2014年までシドニー大司教だったぺル枢機卿は昨年2月、事情聴取を受け、「教会は大きな間違いを犯した」と証言したが、事件を隠蔽したことはないという(当時、オーストラリア教会最高指導者の同枢機卿が全く事件を知らなかったとは到底考えられない)。

今年初めに公表されたオーストラリア教会の聖職者の性犯罪調査王立委員会の暫定報告によると、オーストラリア教会で1950年から2010年の間、全聖職者の少なくとも7%が未成年者への性的虐待で告訴されている。身元が確認された件数だけで少なくとも1880人の聖職者の名前が挙げられている。すなわち、100人の神父のうち7人が未成年者への性的虐待を犯しているという数字だ。被害者総数は4444人だ。

報告書によれば、教会側は事件が発覚すると、性犯罪を犯した聖職者を左遷する一方、事件については隠蔽してきた。だから、事件が発生し、加害者が実際告訴されるまで平均33年間の年月がかかっている。教会が組織ぐるみで事件を隠蔽してきた実態が浮かび上がる(「豪教会聖職者の『性犯罪』の衝撃」2017年2月9日参考)。

ペル枢機卿は3年前にも「聖職者性犯罪調査王立委員会」の前で性犯罪容疑の尋問を受けたが、「1970年代、神父たちの性犯罪に対する管理という点でミスがあった」と認めたものの、自身の容疑に対しては否定してきた。新しい批判に対しもこれまで一貫として「中傷で事実ではない」と強調している。

フランシスコ法王の最側近のペル枢機卿が未成年者への性的虐待事件に関与していたと判明すれば、同枢機卿を財務局長官に任命したローマ法王の引責問題が出てくる、バチカンは大きな衝撃を受けることは必至だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2017年5月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。