5月24日に公表された5月2、3日に開催された米国の金融政策を決める連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨によると、「メンバーは総じて、緩和策を一段と取り除く前に最近の経済指標の弱含みが一時的とのさらなる証拠を待つのが賢明と判断した」とした。つまり足元の米国の経済指標がやや弱いものが出ていることもあり、それが一時的なものであるのかどうかを見定めてから、緩和策の縮小、つまり追加利上げを判断するとしている。
ただし大半のメンバーは足元の弱含みのデータが、今後の経済物価見通しに対して変更を加えるものではなく、今後の緩やかな金融緩和程度の縮小が適切であるというのも変える必要が無いと概ね合意したとしていた。これはつまり景気判断を変えざるを得ないほどの余程悪い経済指標の発表でもない限りは、予定通りに6月のFOMCでの利上げを決定する可能性が依然として高いことを示唆した格好となった。
市場では経済指標の悪化と、それによる物価見通しの不確実性を危惧するメンバーが複数いたことで、今後の正常化に向けたFRBの歩みがより慎重になるのではないかと捉えた。これを歓迎した格好となり、米株高のひとつの要因となった。しかし、慎重な見方をするメンバーがいるのは確かながらも、市場が抱いている今後のFRBの正常化のスケジュールが後ずれするようなことは考えづらい。
市場の予想する正常化のスケジュールとしては年内3回(3月の利上げ実施込み)、つまりあと6月と9月のFOMCでの利上げと、年内にバランスシートの縮小を開始するであろうとの予想となっている。今回のFOMC議事要旨でこの予想が大きく修正されたとは思いづらい。
それを示すものとして、年内のバランスシートの縮小の開始を示していたことがあげられる。その手段として、満期を迎えた米国債などの再投資額を3か月ごとに縮小するとの事務方スタッフの提案について、参加者はおおむね賛同したとしている。12月のFOMCでこのバランスシートの縮小を決定すると年内開始が時間的に厳しくなる可能性がある。そうなると9月もしくは6月のFOMCでこのあたりを詰めてくる可能性がありうる。
また、今後の利上げスケジュールについて大きな修正がなさそうなことを、ブレイナード理事が議事要旨発表後というなかなか微妙なタイミングで指摘する格好となった。ブレイナード理事は利上げに慎重な「ハト派」の代表格であり、今回のFOMCで物価見通しの不確実性を危惧するメンバーの一人であったと予想される。
ところがそのブレイナード理事は25日、世界経済について「ここ数年で最も明るい」との認識を示した。「欧州経済の成長が堅調なうえ、日本は安定し、新興国も良好になりつつある」と説明。そのうえで「FRBの経済見通しに対する下振れリスクは軽減された」と述べていた(日経新聞)。
これは見方によれば、FOMC議事要旨で市場が今後の正常化のスケジュールについて、FRBがより慎重になることを期待し過ぎることに対し、少しブレーキを掛けてきたようにも思われる。今回の発言は議長など執行部の意向を反映した可能性もあり、今回のハト派のブレイナード理事の発言は注意しておく必要があろう。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年5月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。