加計学園問題をこじらせた政権の強引さ

中村 仁

参議院本会議(17年5月29日)でも加計学園問題の追及を受けた安倍首相(首相官邸サイト:編集部)

報道も識者も白組と黒組に分断

加計学園問題で次々と新しい情報が飛び交い、メディアも識者も、シロ組(擁護派)とクロ組(批判派)に分断され、思い思いの主張を発信するので、問題の本質がどこにあるのか見えてきません。安倍政権の政治体質が絡んでおり、両者の対立は増幅されています。国際情勢が混乱を増しているこの重要な時期に、学園問題が国の最大の争点になっているのは不幸なことです。これまで明らかにされた情報をもとに、どう考えるべきかを整理してみました。

最大の問題は「獣医が足りない。国家戦略特区を使って獣医学部を新設しよう」(政策目的)が正しいのかどうか。次に、「それが正しいとした場合、安倍首相の親友が経営する加計学園に新設を認可した」(加計学園の適格性)は正しいかったのかどうか。第三に「首相が便宜を図るため、強引に行政組織に圧力をかけた」(行政手法)のではないか。

さらに、各種の文書の存在が発覚し、政権、政府側は「該当する文書は確認できない」、あるいは「記憶にない」などと発言しているのは、「隠ぺい工作にあたり、徹底的に事実関係を洗い出す必要がある」(官邸、官僚の倫理性)という問題もあります。

獣医を増やす政策目的は正しい

第一の政策目的の適否の問題では、「感染症対策、ライフサイエンス政策などのためには、獣医は増やすべきである」が正しいと思います。学部を新設しようとすると、文科省が反対し、その文科省は「農水省がうんと言わない」、農水省は「日本獣医師会がうんと言わない」で、既得権益の擁護派が反対に回っていたのでしょう。加戸・前愛媛県知事もそう発言しています。安倍首相の「規制改革には抵抗が必ずある。特区を使って規制緩和に挑戦していく」という発言も、その通りだと考えます。

次に「では受け皿がなぜ加計学園なのか」となると、政権側の説明は曖昧です。「定員180人もの学生を対象に教育、研究ができる実力の教員が確保できていない」、「獣医学部の経営収支は赤字で、将来に不安がある」、さらに「大学設置審議会の認可が下りていない」などの情報があります。

安倍首相は「圧力は一切、かけていない」と、議会で発言しています。「獣医学部誘致で前向きになったのは民主党政権時代だ」とも指摘しました。「加計学園が適切なのか」が論点なのに、「特区設置の適否」に論点をすり替えています。政権側は重要な判断材料について、説明を省き、「厳密に判断した。友人関係があるなら、むしろきちんと手続きに沿って客観的にやってきた」と繰り返すばかりです。「厳密に」とか「客観的に」という根拠は言わず、信じろという姿勢です。

かなり無理して、加計学園に絞ったと推察されます。そのために使った手が「忖度」でしょう。首相の意向を「忖度」さすために登場したのが、前川・前文科省次官が述べている副官房長官、首相補佐官らです。明らかにされた内部文書が正しいとすれば、「忖度」というやさしいそうなものではなく、「強硬な指示、圧力」とでもいうべき次元の話です。官房長官も高飛車な発言を繰り返し、新事実が発覚して、尻尾を捕まえられるなど、不遜な態度ですね。

政権側の不遜な態度はマイナス

政策目的は正しい、受け皿の選定過程は不透明、官邸の行政現場に対する指示は強引、ということになるのでしょうか。多くの問題点が指摘される中で、あっせん利得や贈収賄に相当するような刑法に触れる行為の気配はないようですね。あれば、大スキャンダルです。スキャンダルに発展する要素はないので、追及する側はいずれ息切れするだろうとの読みでしょう。

「官邸の最高レベルが言っている」との内部文書の存在について、衝撃が走ったのは前川・前次官の証言でした。政権側やシロ組(政権擁護派)から、個人的な中傷、人格攻撃が相次ぎました。その後、「前川氏をよく知る人ほど、いろいろなところに実地調査にでかける人物とみていた」との情報、記事が紹介されています。「出会い系バー出入りする品行に問題の人物」と決めつけるのは、始めから先入観を持っていた人たちでしょうか。

既得権益の打破という政策目的が、政権側の不透明な動き、強行突破できると踏んだ強引な行政手法が問題を大きくしたのだと、思います。よせばいいのに、煙や火の粉が上がっている最中に、テレビ朝日の社長と報道局長、読売新聞の編集局幹部を招いて、個別に会食したりしました。メディアに対する対応が無神経すぎるのです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2017年6月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。