文科省再調査:まずは前回調査での“隠ぺい”解明を

2017年06月11日 17:00

加計学園問題について「官邸の最高レベルが言っている」との文書の存在について、前川前次官が記者会見で「あったものをなかったことにできない」と述べたのに続いて、文科省内部者からの告発・証言が相次ぐ中、菅義偉官房長官は、6月8日の記者会見で、「出所や、入手経路が明らかにされない文書については、その存否や内容などの確認の調査を行う必要ないと判断した」との答えを、壊れたレコードプレーヤーのように繰り返す醜態をさらした。

その翌日午前、松野博一文科大臣が記者会見を開き、「文書の存在は確認できなかった」としていた文科省の調査について、再調査を行う方針が明らかにされた。

この文書によって問題とされたのは、安倍首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園が、国家戦略特区の指定によって、今治市での獣医学部の新設を認可されたことについて、安倍首相の意向・指示の有無、それに関して官邸や内閣府から文科省への発言が有ったか否かであり、それらを含めて真相解明すべきとの意見(渡辺輝人氏【【加計学園問題】安倍首相の「再調査を指示するフリ」】など)は、全く正論である。

しかし、今、そのような正論を掲げて、文科省に広範囲の調査をするよう求めることは果たして得策と言えるであろうか。文科省の背後に、今回の加計学園の問題に対して不誠実極まりない対応を続けてきた首相及び首相官邸の存在があることを考えると、加計学園問題の本質に迫る調査を求めることは、かえって、真相解明を遅らせることになる可能性が高い。

再調査で加計学園問題の真相を全面的に解明できるか

今回の再調査で真相解明を迫った結果、仮に、内閣府から文科省に対して「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向」などの圧力があり、そして、それが実際に安倍首相の指示ないし意向に基づくものであることが明らかになれば、それは「安倍政権の致命傷」になる。調査の結果そのような事実が明らかにならないように、再び文科省に対して、「強烈な力」が働くことは容易に想像できる。

問題の文書の存在が確認され、仮に、その文書の作成者が特定されたとしても、その「作成者」には、とりわけ「強い圧力」が働くことになるだろう。「内閣府側の発言を直接確認したわけではない」「省内報告書作成の際に『内閣府側の圧力』を誇張する表現を使った」などという話になる可能性が高い。

しかも、調査の範囲が、文科省内で加計学園の獣医学部設置認可に関わった担当部局及びその報告を受けて意思決定をした幹部全員に及び、しかも、そこで内閣府側からどのような働きかけがあったか、そこで「官邸の最高レベル」という話が出たのか否かという「極めて微妙な問題」について、証拠を収集し、事実認定を行うことになると、相当長い期間を要することになる。

そのような困難を乗り越えて、真相を解明するのは、いきなり「エベレスト登頂」をめざすに等しい。

そういう意味では、今回の調査でいきなり「加計学園問題の本質」に迫ろうとするのは、調査する側に、口実と時間を与えるだけになる可能性が高く、この問題について、国会で追及して真相を解明する上で得策とは思えない。

まずは前回調査での「隠ぺい」の解明を

今回の再調査に当たって、まず問題とすべきは、前川前次官が「確かに存在する」と述べた文書について、前回調査で「確認できない」という調査結果が出されたこと自体である。

それは、文科省という「組織」における「文書の存在の隠ぺい」という「不祥事」である。

そこで、当面の調査対象は、「あるものをないことにした」前回調査での「隠ぺい」に絞り、それを以下のような手順で速やかに行うよう求めるべきである。

① 問題の文書の存在を確定すること

文科省に、弁護士などの外部者による「通報窓口」を設置して、通報の対象を、法令違反だけでなく今回の件を含めた内容とする必要がある。前回調査で文科省が、文書が存在するのに「存在しない」との調査結果を公表したことについて、これまで多数の現職職員がマスコミ等への内部告発を行っているようだ。この点について、匿名の内部通報が窓口に行われ、情報が提供されれば、文書の存在を確認することも容易になる。

② 前回調査の対象・方法の決定及び文書の「隠ぺい」の経緯の解明

文書の存在が確認されれば、前回調査が文書の存在の「隠ぺい」であった疑いが一層濃厚となる。そこで、次に必要なことは、容易に存在を確認できる文書について、「確認できない」という調査結果が出されたことについての事実解明と原因究明だ。

前回調査では、

「(ヒアリングが)獣医学部設置に関係する高等教育局長や大臣官房審議官、専門教育課長ら7人に対して行われた。民進党が国会で示し、同省に提供した文書8枚に加え、具体的な日付や内閣府、文科省の職員の実名が入った文書を報じた朝日新聞の記事を提示したうえで、19日に1人当たり約10~30分程度聞き取りをした。電子データについては、専門教育課の共有フォルダーだけを調べた」

とされている(5月20付毎日新聞記事)。

前回調査の問題点として、関係者のヒアリングがある。

ヒアリング対象者が7人に限定されたということだが、まず、7名とはいえ、対象職員が適切に選定されたのであれば、その7人が文書の存在を知らなかったはずはない。再調査で彼らから再度ヒアリングをすることが絶対に不可欠であり、その際、彼らが真実を供述できるよう、ヒアリングに当たって「真実を供述することで不利益を受けることはない」ことの確約が必要である。それによって彼らが「実は、文書の存在は知っていました」と供述することも期待できる。

その供述が得られた場合、なぜ前回調査で、「知っていること」を「知らない」と供述することになったのか、その理由を問い質すことになる。実際には、彼らは「文書の存在」を供述しているのに、ヒアリングする側が聞かなかったことにした可能性、あるいは供述に反して文書はなかったことにした可能性、つまり、調査で露骨な隠ぺいが行われた可能性もある。

また、PC調査の共有フォルダ―への限定も、前回調査の問題の一つである。

真相を解明しようとすれば、少なくとも加計学園の獣医学部の設置認可の問題に関わっていた個人のパソコンを調査するのは当然だったはずである。今回、文書の存在が確認されれば、個人のパソコンの調査を行わなかったことは、実質的には「隠ぺい」になる。個人のパソコンの調査がなぜ行われなかったのか、それを、誰がどのように決定したのかを解明することが不可欠となる。

今回の再調査は、当面、①②の点を調査事項とすれば十分であり、それを速やかに行うべきである。第三者による通報窓口をただちに設置し、全職員に2日程度の期限で匿名通報を呼びかければ相当数の通報が行われるはずであり、ヒアリングも、前回調査に関与していなかった者による調査組織によって行えば、事実を明らかにすることに、さほどの時間はかからないはずで、国会会期中に終えることは十分に可能である。

これらの調査は、第三者による中立かつ独立の立場からの調査が望ましいことは確かだ。しかし、東芝の会計不正での第三者委員会がまさにそうであったように(【偽りの「第三者委員会」で原発事業の問題を隠蔽した弁護士と東芝執行部】)、第三者委員会も、委員長・委員の人選によっては、設置者の意向にしたがい、コントロールされてしまう可能性が十分にある。しかも、第三者委員会は、一旦、設置されると、それ以降、設置者の側では「第三者委員会の調査中であり、一切コメントできない。」との対応が許されることになるので、問題を先送りした上で、曖昧な形で決着させられる可能性もある。

そういう意味では、文科省の内部調査を、調査の担当者・実施方法・調査の状況等を、逐次公表させつつ行わせるのが、「隠ぺい」の早期解明のためには現実的だと言える。

前記①②の調査であれば調査の内容は極めて単純であり、国会での質問や、マスコミの追及で、「文書の存在は確認できたか」「前回調査の時点での調査対象者は、文書の存在を認識していたのか」と質問されれば、答えざるを得ないはずである。

「隠ぺい」の背景の解明は国会で

前回調査での「隠ぺい」が明らかになれば、文科省が、自発的にそのような「隠ぺい」を行うとは考えられないのであるから、その背景に、内閣府や首相官邸からの指示、或いは、そうせざるを得ない「圧力」がかかった疑いが濃厚となる。

文科省だけではなく、内閣府や首相官邸も関わった組織的な「隠ぺい」である可能性が高くなるが、それを、文科省の内部調査で真相を明らかにすることが困難なのは言うまでもない。それから先の調査は、国会が、国政調査権に基づいて行うべきであり、当然、「隠ぺい」が疑われる文科省、内閣府・官邸の関係者の証人喚問も必要となる。

拙劣かつ不誠実な危機対応を繰り返す官邸を信頼できるか

今回の加計学園の問題では、安倍首相の「腹心の友」である加計孝太郎氏が理事長を務める加計学園の今治市での獣医学部新設が、安倍首相がトップを務める内閣府所管の国家戦略特区の指定を受けて実現したことについて、安倍首相の意向・指示があったのか否かという点と、その獣医学部新設が、50年以上獣医学部の新設が行われて来なかったという「岩盤規制」の打破として正当なものなのか否かという点の二つが問題にされてきた。

それらの点に何の問題もない、というのであれば、安倍首相も菅官房長官も、その問題に真摯に向き合い、しっかり説明することが重要であった。

ところが、この問題に対する政府・官邸の対応はあまりに不誠実かつ拙劣だった。森友学園をめぐる問題に関しても、自民党や官邸の危機対応の拙劣さを指摘してきたが(【籠池氏問題に見る”あまりに拙劣な危機対応”】など)、それを反省しようとしなかった政府・官邸は、加計学園問題でも、拙劣で不誠実な危機対応を続け、一層窮地に追い込まれている。

安倍首相は、国会で、野党の質問に「印象操作はやめてください」「野次がうるさくて答弁できない」などと述べて、質問をはぐらかし(【加計学園問題の原点:安倍首相の3月13日の参院予算委での答弁を分析する】)、菅官房長官は、朝日新聞が文科省内で作成されたとして報じた文書を「怪文書」だと断じたり、「出所が明らかではない文書については調査しない」と言ったり、文書が存在するとした前川前次官の個人攻撃を行ったりして、問題をはぐらかしてきた。

そのような拙劣な危機対応を繰り返した末に、とうとう、文書の存在が確認できないとした文科省の調査の「再調査」という事態に追い込まれたのである。

そこには、「安倍一強」と言われる権力の集中の下での「権力者の傲り高ぶり」がある、と多くの国民が思っている。

我々国民の最大の関心事は、森友学園問題についても加計学園問題についても、このような拙劣かつ不誠実な対応を行う首相や官邸を信頼してよいか、ということである。

国家として重大な事態が発生した時にも、政府・官邸側が「不都合な事実」だと思う事柄が存在することはあり得る。その場合にも、それをしっかり国民に明らかにした上で、その後の対応をとっていかなければならない。

しかし、森友学園問題、加計学園問題でとった首相や官邸の対応からは、「不都合な事実」に正面から向き合い、国民にしっかり説明して誠実に対応しようとする姿勢は全く見えない。

今回、安倍首相が松野文科大臣に「徹底調査」を指示し、文科省での再調査を行うことになったという。そうである以上、首相自身が、前回調査における「隠ぺい」の重大な疑惑に向き合わなければならない。

それについて真実を覆い隠すことは、もはや許されないのである。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2017年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。

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