地方の公務員獣医師は不足も、獣医学部新設が解決策ではない

今日(6月11日)のNHK日曜討論でも、獣医師不足が議論になりました。よく獣医師が足りないと言われますが、獣医師の数については、

「分野別、地域的な『偏在』はあるものの、総数としては足りている。」

これが、農水省、文科省をはじめとした政府の公式見解です。

しかし、牛や豚といった産業動物の獣医、とりわけ公務員獣医師の数は足りず、多くの都道府県で定員割れを起こしていることも事実です。

ただ、獣医学部を新設して定員を増やすことが、産業動物獣医師、なかんずく公務員獣医師が不足している問題の解決策になるのか?この点については、あまり客観的な分析が行われていません。
地方に獣医学部を作れば、その地域の公務員獣医師も増えるでしょう、ぐらいの感覚です。

しかし、具体的な数字を調べてみると、その感覚が正しくないことが分かります。

例えば、青森県にある私立の獣医大学である北里大学の1学年の定員は120名。1.1倍まで認められる枠を使って実際には132名の学生が学んでいますが、このうち青森県内に就職した学生の数はわずか3名です。そのうち公務員獣医師になった人は1名のみです。事実、現在も青森県では公務員獣医師の欠員状態が続いています。

つまり、獣医大学の所在地と、その地域における公務員獣医師の充足率との間には、直接の関係はないと考える方が自然です。ですから、仮に、加計学園が四国に獣医学部を新設しても、それだけをもって、四国の公務員獣医師の不足問題が解決するわけではないと思います。

しかも、加計学園の問題に関して言えば、国家戦略特区で獣医学部の新設を認める条件は、既存の獣医学部では提供できないような、創薬やライフサイエンスといった最先端の教育を提供できるかどうかであって、公務員獣医師の不足を補えるかどうかは問われていません。

最近よく、加計学園の特区認定を正当化する理由として、四国における公務員獣医師の不足に対応するためという人がいますが、これは国家戦略特区の認定の妥当性(すなわち、「石破4条件」を満たしているかどうか)を判断するうえでは関係のない話であって、単なる「論点ずらし」だと言わざるを得ません。

さて、話を公務員獣医師の不足問題に戻しましょう。

では、公務員獣医師不足には、どう対応すればいいのか。

そこはやはり、待遇改善が一番だと思います。

ペットのお医者さんとして開業している獣医師に比べて、公務員獣医師の待遇が低いのは確かです。したがって、極端なことを言えば、月給を倍にしてあげれば、公務員獣医師問題の多くは解決すると思われます。愛媛県は加計学園に建設費の補助として30億円を超える税金を投入するようですが、そんな額があれば公務員獣医師の待遇改善など簡単に出来るでしょう。

公務員獣医師が足りないという問題は、古くからある長年の課題です。今回の加計学園の問題を期に、公務員獣医師や産業動物獣医師の問題に関心が集まったことは良かったと思っています。

可能なかぎりの待遇改善を図るとともに、欧米などで導入されている「テクノロジスト」と言われる獣医師の担う獣医事行政のサポートを行う職種の活用についても、あわせて検討が進むことを期待したいと思います。

関係者の皆さんからのアドバイスも、ぜひよろしくお願いします。


編集部より:この記事は、衆議院議員・玉木雄一郎氏の公式ブログ 2017年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はたまき雄一郎ブログをご覧ください。