「バリアフリー」のインフレに歯止めをかけよう

2017年06月30日 11:40


バニラ・エアの事件で議論が盛り上がっているが、乙武さんの記事は事実誤認だ。尾藤さんの記事も指摘するように、バニラ・エアの対応は違法ではない。乙武さんは「バニラ・エアは合理的配慮の範囲内であるストレッチャーさえ用意していなかったのだ。これは、明らかに障害者差別解消法に反する状況だったと言える」と書いているが、障害者差別解消法第8条では、こう定めている。

事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。

これは抽象的な訓示規定で、ストレッチャーを用意することが「合理的な配慮」にあたるというのは乙武さんの解釈にすぎない。合理的か否かの基準は、法令で義務づけられているかどうかで客観的に決めるべきだ。

バリアフリー法では、客席数が60以上の航空機における機内用車椅子の設置が義務づけられているが、乗降の際のストレッチャーなどの設置義務はない。空港にも車椅子に対応する設備が義務づけられているが、これは航空会社の義務ではない。したがってバニラ・エアがストレッチャーを用意しなかったことは違法ではない。

乙武さんも「バニラ・エアを選ばず、別の航空会社を利用するという方法もあった」ことを認めるが、「それではバニラ・エアが違法状態であり、企業として無自覚の差別を行なっていることを放置し続けることとなる」と書いている。つまり彼らが「差別者」だと考える航空会社に社会的制裁を加えるために、故意に連絡しないで騒ぎを起こしたのだ。

問題の木島英登氏は、自分のブログで過去に4回も搭乗拒否を突破したことを誇示している。彼は「前もって連絡していたら、診断書を出せと言われたり、根掘り葉掘り聞かれたりして面倒です。連絡をしなかったのは確信犯です」と答えている。

彼のような「当たり屋」が騒ぎを起こすと、バニラ・エアのようなLCCも障害者用の設備や人員を用意しなければならない。外資系航空会社OBによると、そういう機材を1台チャーターするのには1万円ぐらいかかる。バニラ・エアの関空=奄美便の料金は4780円である。これでは「格安航空会社」は成り立たない。

乙武さんも銀座のレストランを名指しで批判した事件を謝罪しているが、こういう当たり屋が来たら、全国の階段で上がるレストランがアウトだ。車椅子用エレベーターをつけるコストは、他の客が負担する。これは「ゼロリスク」と同じく、少数派が多数派にただ乗りするモラル・ハザードである。

こういう場合に大事なのは、「合理的な配慮」などの基準を法令で明確に決めることだ。それを「思いやりがないのは違法だ」というように拡大解釈すると、日本中に無駄な障害者用設備があふれ、そのコストは利用者や納税者が負担することになる。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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