蓮舫の衆院転出が、いかに“無理ゲー”か超ざっくり試算してみた

新田 哲史

二重国籍問題が再燃中の蓮舫氏だが、野田幹事長の交代が明らかになるとともに、自身の衆院転出を明言した。まあ、自分の国籍ですらあやふやなことしか言えなかった御仁なので、また口先だけで終わるかもしれないし、ひょっとしたら本音では、衆院解散まで自身の代表生命が持たないことを見越して鼻からその気もないかもしれないが、早川忠孝さんの昨日のブログ(アゴラ未転載)でも指摘されたように、もし出馬するのであれば、現状では「自爆覚悟」とみてもいいのだろう。

ただ、仮に出馬するにしても、民進党の東京都内の衆議院選挙区の支部長はこの一覧を見ていただければ分かるように、25区のうち2つしか空いていない。早川さんは1区からの出馬を勧めており、民主党代表経験者でもある海江田氏を比例で優遇する手もなくはないが、彼も故・与謝野馨氏としのぎを削ってきた縄張りを簡単に明け渡せるかも微妙な気がする。そこで拙稿では空き選挙区を中心に検証したい。

民進党都連公式サイトを参照:新田作成

公明・共産の縄張りへの特攻は無謀

一つは東京12区(北区、足立区の一部)。現職は公明党の元代表である太田昭宏氏で、さらにここを地盤とするのが比例復活した共産党の池内さおり氏。北区は、公明・共産がターゲットとする支持層が伝統的に多い地域であり、互いに金城湯池であることを自認して先の都議選でも熾烈な戦いを繰り広げており、とても割って入れそうな情勢ではない。

昨年の参院選での北区内での蓮舫氏の得票は、26,602。順位こそ東京都全体と同じくトップだったものの、公明党の竹谷とし子氏(26,122)、共産党の山添拓氏(23,040)に肉薄されたのが、この選挙区特有の事情であることがわかる。

一方で、この選挙で苦戦が早くから予想され、組合などの組織票を完全にシフトした同じ民進党の小川敏夫氏の得票(10,376)を合わせれば、もっと楽に戦えるという見方もあるかもしれない。しかし、二重国籍問題や都議選での求心力欠如でブランドが地に落ち、ここに小池新党から、おときた都議などの有力な候補者が出てくると無党派層もかなり削り取られかねないだろう。

現実的には、蓮舫氏もご執心だった野党共闘路線の見地からすれば、ここは、池内氏のために12区を譲って空けたほうが「無難」というところか。

長島・小池連合軍VS自民・小田原氏の地盤に割り込めるか

もう一つは東京21区(立川、日野、昭島など)。ここが空白区になったのは、皆さんもご案内のように長島昭久氏が離党したためだ。蓮舫氏は長島氏を除名処分にしており、自ら止めを刺しに行きたいところかもしれないが、まず、ここの現職は自民党の小田原潔氏。日本会議の国会議員懇談会に所属するなど、保守色が強く、2期目を決めた前回の衆院選では「選挙に強い」と評判だった長島氏を初めて選挙区で破り(長島氏は比例復活)、NHKの当確速報がひっくり返るなど、急速に力をつけている。

その長島氏は現在無所属。都民ファーストの会の国政進出の動き次第では合流する見方がありがちなものの、無所属で選挙区奪回を狙う「男気」路線も有力な選択肢になっている。もともと選挙に強かった中で“背水の陣”を敷いた覚悟を前面に出し、民進党からの離党、小池人気の追い風もあって無党派層の支持回帰も予想され、次回の選挙は、再び小田原氏と2人合わせて得票率8割を超える激戦は必定だ。

なお、東京21区内(区割り変更前の3市)での蓮舫氏の参院選得票は、44,361。ここに小川氏の3市での得票を足しても59,509票にしかならない。選挙が違うのであくまで参考での比較だが、14年衆院選の小田原氏(83,984票)、長島氏(82,351)を大きく下回る。

ただし、「野党共闘」が成立し、共産党の前回衆院選候補者の得票(35,598)をこの「蓮舫+小川」票に加算してみると、95,107票。長島氏の前回票から民進党の組織票が多少離れることも想定すると、蓮舫氏に希望が見えなくもないが、先日の都議選で3市での都民ファーストの会の公認・推薦候補は4人合計で96,192票をゲットしている。

現状の政治情勢からすれば、「小池票」が雪崩を打って長島氏に入る可能性もあり、手堅い保守地盤を押さえる小田原氏ともども、“落下傘”と同等の蓮舫氏が太刀打ちできる相手ではない。

本当は6区から出たかったはずだが、民進党誕生でご破算

では、蓮舫氏が、現任の支部長をすげ替えて、ほかの選挙区から出る可能性はあるのか。

実は蓮舫氏の衆院転出説は今回が初めてではない。彼女が「仕分けの女王」として脚光を浴びた後から、たびたび噂があり、2013年の参院選の折に私が仄聞した話では、小宮山洋子氏が落選・引退して空白になった東京6区(世田谷区)からの出馬を視野に入れているというものもあった。世田谷区は現区長が社民党出身の保坂展人氏であることからもわかるように、リベラル系の票田は根強く、蓮舫氏が出馬するなら親和性が高い選挙区といえる。

ところが、民主党と維新の党が合併して民進党になったとき、維新の党から、6区を地盤とする現職、落合貴之氏(比例復活)が入ってきてしまった。新人候補者なら、そこのけで配置換えも可能だろうが、現職をおいそれと国替えさせるわけにもいかない。

ほかには蓮舫氏の自宅がある目黒区、つまり5区からの出馬も思い浮かぶが、ここは元職の手塚仁雄氏が支部長として国政復帰を目指している。しかも手塚氏は、蓮舫氏の腹心中の腹心。その彼に選挙区を献上させられるはずもなく、5区出馬も考えにくい。

もし蓮舫氏が都内の衆院小選挙区から出馬をするのであれば、先述したように海江田氏を比例転出で厚遇しての1区か、首をすげ替えやすい新人支部長の選挙区が考えられそうだ。しかし衆院が解散した時点で、彼女はまだ代表の座にとどまっているのであろうか。

【追記14:00】蓮舫氏が代表を辞する意向を固めたと報道各社の速報。やはり本稿での試算で分かったとおり、代表継続による衆院転出は非常に厳しいものがあった。

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新田 哲史
ワニブックス
2016-12-08