VALUは読売社会部が叩き始めたら規制強化のサイン

新田 哲史

朝日新聞系の「AERA」で大々的に取り上げられたタイミングで騒動が勃発(AERA dotより引用)

個人的には、VALUに関してはアカウントを作っただけで仮想通貨のことも詳しくないし、特に面白そうとも思わないのだが、この手の新興サービスと規制を取り巻く動き、そしてそれに連動するメディアの論調については記者時代から含めて20年近く見てきたオジさんから、紙の新聞を読まないスマホ世代のVALU愛好者の皆さんに一言申し上げておこう。

ネットだけの話題から日経の報道に“昇格”した意味

良くも悪くもVALUは今回のヒカル氏の騒動によって“悪名”が轟いた。これにより「ネットの新しもの好きしか知らない」段階から「新聞やテレビでも取り上げ始める」段階に一気にステップアップしてしまったのは間違いない。

グーグルニュースで「VALU」を検索すると、一目瞭然だが、5月にサービスを開始したばかりのサービスだから、この騒動が起きる前に取り上げている媒体といえば、その大半が『TechCrunch Japan』や『It media』を筆頭とするネットメディアだった。

そして日経電子版にVALUに関する麻生金融相のコメントが掲載されたのがこの数日前(8月15日)。

麻生金融相、VALUでの資金調達「保護と育成の両方を考える必要」 

大臣の記者会見でVALUが取り上げられたのはこれが初めてだと思うが、大手メディア的にはまだ日経子会社の日経クイックからの短信レベルで済む程度の話だったのが、幸か不幸か同時期にヒカル氏の騒動が起きてしまったことで日経本体の記事に「格上げ」されてしまった。

個人価値売買VALU、ユーチューバー「売り逃げ」騒動

さすがに日経本体に書かれると、仮想通貨のことをよく知らない私のようなオジさんでもことの経緯がよくわかる。これでVALUの認知度・理解度が(運営側には懸念される形で)一歩進んだのが間違いない。ただ、日経が書き始めたといっても、まだ電子版限定のコンテンツだが、おそらく麻生さんや関連省庁高官の記者会見でヒカル氏の騒動がまた言及されると、次は同じ日経の本体でも「電子版」から、さらに「本紙」に格上げ掲載されるかもしれない。そうなれば、一般紙やテレビの経済記者たちも今後取り上げる動きが加速する。まさにVALUはその認知度において悪名が先行するかたちでアーリーアダプター段階からアーリーマジョリティー段階にスイッチし始めた状況といっていいだろう。

VALUの次の脅威が社会部記者だと思うワケ

では、VALU関係者や愛好者が次に注意すべきメディア報道の段階はどの時点か。「金融当局が規制の検討に入った」などの記事が具体的に出てくることはもちろんだが、実は日経の記者や一般紙の経済記者が書いている間は、世論の風当たりとしてはまだ生易しいといえる。というのも経済記者は企業を取材対象にしていて、ビジネスがトライ&エラーを重ねて進歩していくことをまだ理解している方だからだ。

当面、VALUのメディア露出で最もターニングポイントとなりそうなのが「社会部マター」になるかどうかだ。社会部は消費者視点、大衆視点で書くから「ヒカル氏に扇動された情弱ユーザーは保護しなければならない」という価値観が根庭にあり、経済記者より「正義論」を振りかざす。菅官房長官に執拗に噛み付く東京新聞の望月記者みたいに容赦なく、追及しまくるだろう。VALU関係者には“厄介”なことになりそうだ。

具体的な動きとしては、たとえば読売新聞の社会部が一面や社会面トップでこの問題を書いてくるようだとVALUへの風当たりは一気に強くなるだろう。良くも悪くも、その社風が朝日新聞よりもアナログ志向で、その中でも社会部は伝統的に新興ビジネスや話題の起業家が何かやらかしたときに「クビをとってやる」という意気込みは根強い。やや旧聞に属するが、近年では消費者庁によるソーシャルゲーム業界のコンプガチャの規制強化の動きをいち早く掴み、大々的にキャンペーンをしたのは、私の地方支局時代の後輩でもある消費者庁担当の社会部所属の記者だった(たしかその「特ダネ」で表彰されていたと思う)。

参照:読売が呼び水のコンプガチャ廃止で、グリーもパチンコ業界の二の舞い?(Business Journal )

リンクで引いた上記記事のタイトルのように、コンプガチャのときは、まさに読売の記事が「呼び水」となり、ソーシャルゲーム業界が一大転換を余儀なくされたのは、VALU愛好者の皆さんもよく覚えていると思う。当時の業界主要プレイヤーでは、DeNAが業態も多様化していたので踏みとどまった一方、グリーは悲惨な道を歩み始めるきっかけとなった。

当局も社会部記者も新しいネタを探している

もちろん、当時のコンプガチャを巡っては、ソーシャルゲーム業界の消費者保護の意識があまりに足りなかったことは事実だし、今回のVALUのヒカル騒動と比べれば、規模も社会的影響力も違う。読売社会部も当局の動きが具体的に出てこないと本腰は入れないだろう。いまのところ、消費者庁の仮想通貨に対する公式見解リリースは3年前のビットコイン騒動のときから最新版はアップデートされていない。

ビットコインを始めとするインターネット上の仮想通貨の利用について

ビットコインは、各国政府や中央銀行による信用の裏付けのあるものではありません。消費者の皆様におかれましては、こうしたいわゆるインターネット上の仮想通貨の利用に当たって、その仕組みやリスクを十分に理解・納得の上で利用されることが必要です。

しかし、当局も社会部(読売以外も含め)も「新しい仕事」をするためのネタは探している。有名ユーチューバーの絡んだ仮想通貨事案というのは「仕事してます」アピールするには格好の材料だ。久保田康介弁護士も動画で指摘するように、金融商品取引法で定めるインサイダー取引の構成要件は満たしていないものの、当局が新しい規制に向けた調査・検討に入り、消費者視点で大手マスコミの社会部記者がそれを煽る素地は整いつつあると言える。

なお、9月から始めるオンラインサロン「ニュース裏読みラボ」ではこんな感じでビジネスニュースの分析や展望をしたいと思っているのだが、個人的には、サロンで取り上げるケーススタディ候補がまた出てきたな、と注目している。受講者に企業の広報PR担当の人たちもいれば、危機管理と報道の関係について議論できる「生きた教材」になりそうだ。