憲法を守ったら戦争に巻き込まれないの?

池田 信夫

(写真は朝鮮中央通信)

民進党の代表選挙では、前原さんも枝野さんも「安全保障法制は憲法違反の下でつくられた」と言っています。北朝鮮が北海道の近海にミサイルを落とし、グアム近海に向けてミサイルを発射すると脅しているとき、まだこんな寝ぼけたことをいっているようでは、政権は永遠にとれないでしょう。

アメリカのトランプ大統領は北朝鮮のグアム発射計画に対して、ツイッターで「世界がこれまで目にしたことのないような炎と怒りに直面することになる」と警告しました。北朝鮮はいったんあきらめたようですが、本当にミサイルを発射したらアメリカは反撃するかもしれません。

反撃の方法はいろいろ考えられますが、北朝鮮に対して攻撃が行われると、かねてから北は「ソウルを火の海にする」と予告しているので、南北国境付近の基地からソウルに向けてミサイルを発射するでしょう。そうするとソウルは国境から30kmしか離れていないので迎撃できず、市民100万人以上が死ぬと予想されています。

ランド研究所のシミュレーションによると、戦争は早ければ数日で終わるので、北朝鮮は米軍に破壊される前にミサイルをすべて発射するでしょう。今でも国境付近に約300発のミサイルが配備されており、同時に50発ぐらい撃てるようです。

地上戦も始まるでしょう。米軍と韓国軍が北朝鮮に侵攻すると中国も北朝鮮に侵攻し、ミサイル攻撃も行われるでしょう。中国が核兵器を使う確率は低いようですが、通常兵器でも数万人の死者が出るでしょう。

戦争が計画的に始まるとは限りません。歴史上の多くの戦争は、ちょっとした偶然で起こったのです。第1次世界大戦は、1914年にオーストリアの皇太子が暗殺された事件をきっかけにして起こりました。そのころヨーロッパの人々は平和を楽しみ、戦争が起こるとはまったく思っていなかったのです。

今後も局地的な紛争や小さなミスから全面戦争に発展する危険があるので、偶発戦争が起こらないように日本と中国とアメリカが連絡を取り合うことが大事です。でも北朝鮮のように予告しないでミサイルを発射する国とは、話し合いはできません。

「平和憲法を守ったら北朝鮮が攻撃しない」ということはありえない(今やっていることでわかります)。「集団的自衛権を行使しなかったら巻き込まれない」ということもありません。朝鮮半島で戦争が始まったら在日米軍基地が攻撃される確率は高いので、日本は自動的に戦争に巻き込まれるのです

では米軍基地がなかったら、日本は安全になるでしょうか。その場合は自衛隊を大幅に拡大して防衛費は今の何倍にもなり、核武装もしないといけないでしょう。米軍が撤退して日本が「自主防衛」の体制を整えるまでの間に、北朝鮮や中国が攻撃してきたらどうするんでしょうか?

米軍から先制攻撃することは今のところ考えられませんが、北朝鮮の先制攻撃はいつあってもおかしくない。北朝鮮がミサイルを発射したら、日本に届くには10分しかかからないので、それまでに迎撃しないといけません。これは文字どおり秒きざみの話で、大地震のような災害と同じです。「巻き込まれるかどうか」という選択の余地はないのです。

だから、いざというときの危機管理を考えておく必要があります。もちろん政府はその態勢をとっていますが、憲法の制約でいろいろ面倒です。安保法制では「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」でないと武力行使できないことになっています。これはかえって危険です。

ミサイルが飛んできたとき、「これは存立危機事態か」と議論する時間はないので、安倍首相が判断するしかありません。彼が「私は判断できないので、憲法を守るために国会で審議しよう」といって国会を召集していたら、ミサイルが日本国内に落ちて何万人も死ぬかもしれません。憲法は命より大事なのでしょうか?