電波オークションで政府もテレビ局ももうかる

池田 信夫

政府が電波オークションの検討を始めたが、いまだに産経のような初歩的な誤解があるので、コメントしておく。まず電波利用料(産経は「電波使用量」と誤記)は、オークションと関係ない。これはオークションを導入しない言い訳として電波官僚が決めたもので、その基準が不透明だとか放送局の料金が安いとかいっても意味がない。そもそも電波利用料という制度が間違っているからだ。

オークションを導入すべきかどうかについては、1990年代から議論が行われ、経済学者の意見は100%一致している。今やアジアでオークションをやっていない国は、日本以外は中国と北朝鮮とモンゴルだけだ。これは国有地を無料で売却するようなもので、社会主義国以外では考えられない。

このように奇妙な状態が続いているのは、政治力の強いテレビ局と系列の新聞社がオークションを妨害し、言論統制をしてきたからだ。政府も「オークションをやれというパブリックコメントが少ない」というが、これは当然である。キャリアはもちろん、国際競争力のないベンダーも、オークションによる透明な配分をいやがっているのだ。NOTTVのように、外資を排除するためにはどんな筋の悪いサービスでもやる。

本質的な問題はオークションではなく、非効率に用途が決められたガラパゴス周波数である。公共用周波数については総務省も検討を始めたようだが、本丸はテレビ局が押えたままほとんど使っていないUHF帯(470~710MHz)である。このほとんどは利用されていないホワイトスペースで、任意の地点で200MHz以上あいている。

これをテレビ局が「電波利権」と思い込んで死守しているために、日本では話が進んでいないが、アメリカでは600MHz帯のインセンティブ・オークションでテレビ局から連邦政府が電波を買い上げ、今年6月に198億ドルでT-Mobileに売却した。この84MHzの帯域の原価は、FCCが明らかにしたように105億ドルで、連邦政府の収益93億ドルのうち70億ドルが一般歳入として債務の削減に使われる。

つまりテレビ局は約1兆円もうかり、連邦政府は9000億円もうかり、その帯域を買ったT-Mobileはもっともうかる(そうでなければ落札しない)。最大の受益者は、電波を有効利用できる国民である。買い上げから売却までみると、電波オークションは誰も損しない取引なのだ。

ところが日本は2周遅れで売却オークションもしていないため、テレビ局には「既得権を奪われる」という被害妄想が強い。それは逆なのだ。今や赤字経営でキー局のお荷物になっている地方民放が退出するには、インセンティブ・オークションで電波を買ってもらうのが最適だ。

その原価は日本では(アメリカとGDPで比例配分すると)40億円/MHz程度だから、6MHz売れば240億円。地方民放の1年分ぐらいの売り上げだ。これを政府がその2倍ぐらいの価格で売れば、200MHzで1兆円近い国庫収入になる。手詰まりになった安倍政権の「奥の手」として、これより筋のいい話はないと思う。