デジタル教科書教材協議会DiTTが著作権シンポを開きました。
デジタルの教科書・教材を巡る著作権問題がいよいよ焦点となってきました。
http://ditt.jp/news/?id=2056
登壇者は文化庁著作権課秋山課長補佐、高井崇志衆議院議員(前)、つくば市総合教育研究所毛利所長、ベネッセ小林さん、文理工藤さん、山田弁護士など。
ぼくは知財本部や文化審議会の場でデジタル教科書の制度化を唱え続けてきました。
DiTTとしても提言を発してきました。
そしていよいよデジタル教科書の制度化が動き、著作権論議も政府で本格化してきました。
ぼくらの成果の一つです。
しかし制度が動いても、著作権処理には難問が山積です。
そこで2016年12月、DiTTは著作権WGを作り、議論してきました。
このほど中間報告を取りまとめた次第です。
DiTT著作権WG中間報告
http://ditt.jp/office/DiTT_report.pdf
制度面では、1)デジタル教科書が正規の教科書と認められ、著作権の特例も適用、教科書を作製することが楽になります。2)遠隔教育での教材も補償金を支払えば利用できるようになります。
この法案が成立すれば大きな進展です。
同時に超党派の国会議員連盟にて、「教育情報化推進法」が策定されています。
デジタル教科書はじめ教育情報化全般を推進する基本法で、これも実現すれば全国の自治体が計画を作ることとなり、大きな進展となります。
これら政府の法案と議連による法案はいずれも国会提出前の準備段階です。
政府と議連の双方に早く提出してもらいたい。
民間として応援・サポートしたい。
提出後も早期の成立を期し、これも民間として応援したく存じます。
この制度が実現した後、著作権の処理や著作物=教材の利用をスムーズにするよう環境を整える。
これが民間=DiTTの次の役割です。
中間報告では、
1)デジタル教科書教材の適正な流通
2)権利者への正当な対価の支払い
3)システム化等による簡便な処理
の3原則を立てました。
そして、DiTTのアクションは、次の3点としました。
①組織化 権利者団体と包括的に向き合う教材制作の団体を作り、権利団体や教育機関と補償金や権利処理方法などの協議を進める。
②システム化 権利者・教材制作者・利用者(学校等)が簡便に権利処理できるシステム(データベース・アーカイブ)の仕組みを作り、実証を行う。
③啓発 著作物の正しい利用について学校・教育委員会の研修・啓発を行う。
ざっくり言えば「教育版JASRAC」を作ろう、というものです。
権利処理を一元化し、教材の製作や利用が特段の手間をかけずにできるよう仕組みを用意するものです。
DiTT菊池尚人理事は自らの経験を踏まえ「放送番組の権利処理を一元化する放送版JASRACのaRma(映像コンテンツ権利処理機構)が形になるのに10年かかった。今回は10年も待てない。」と指摘します。
そのとおり。2020年の新制度稼働をにらみ、早急に手当てせねば。
しかし、この問題の解決は難しい。
教材の場合、1)権利者(文章や写真の原権利者)と、2)制作者(入試問題、問題週、教科書などを作る企業)と、3)利用者(学校など)の三方の利害を調整する必要があるからです。
連立方程式を解く作業です。
それ以上にぼくが難問だと思うのは、著作権の問題の「わかりにくさ」です。
正直、制度がどうなっていて何が課題なのかを説明するのに骨が折れます。
DiTTの中間報告も、取りまとめておいて何ですが、読んでもわかりにくい。
学校現場や実際に教材を利用する子供や保護者に理解を求める、この対策の必要性を認知してもらうことが最大の難題だと考えます。
対策のプライオリティーを上げて、それこそ国会で法案を早く成立してもらう上で、社会認知は不可欠ですから。
政府の会議でも、民間での議論の場でも、教材にかぎらず著作権の話になると、とたんに専門家による専門用語の重箱隅つつきになりがち。
デジタル化で全ての人が著作物の利用者+製作者+発信者となり、著作権法が「みんな」の法律になったのですが、ややこしいんで、困ってしまうのです。
文化庁秋山補佐は、学校での著作物利用を巡る課題として、著作権処理に多くの手続費用がかかることに加え、教育現場で他人の著作物を極力使わないようにしているなど利用の萎縮が起きていることや、許諾を得ずに利用してしまっていることを挙げます。
これも「わかりにくさ」が大きな原因です。
わかりにくい制度を、わかりやすく運用・利用できるようにすること。教育版JASRACの意義は、ここにあります。
議論は白熱しました。
まず、教材のデジタル化を巡る著作権問題への指摘がありました。
文理・工藤さん:著作権処理にはコストがかかる。教材会社はそのコストを下げようとする。これは教材そして教育のレベルに直結する問題だ。
ベネッセ・小林さん:包括的な権利処理と補償金の組み合わせで事態は好転する。しかし、デジタル教材の料金規定がないため、いま著作物一件当たりのデジタル使用料は、紙の教材に比べ3倍程度になる。歌詞を使う場合、60倍になったりする。
(会場の河合塾のかたから、金額コストや許諾されないという問題以上に、許諾を求めても返事がない、誰が権利者かわからないという「時間コスト」が大きい、という指摘もありました。)
つくば市・毛利さん:デジタルで子供が自分でコンテンツを収集し、自分で制作・発信する授業を行うことが当然となる。著作権と学び方が直結する。しかし先生は、不適切な使い方をするのとは逆に、著作権を意識しすぎて「使わない」姿勢をとる。過度な萎縮が問題だ。
これを解決するため、政府は補償金を払えば自由に教材を使えるよう制度を改正する意向ですが、問題はその補償金の額です。
これを権利者・利用者等が協議して決めていく。
一人一件当たり50円とか、年間1000円とか、いろんな手法・金額が取り沙汰されているのですが、さてそれをどう設計するかが次のポイントです。
教育だから著作権料をゼロにしろという主張を聞くことも多いのですが、これに対しつくば市・毛利さんは「そんな主張はナンセンス。著作物の価値を認め、敬意を払うことが大事。安すぎて権利者と対立するのはよくない。」と言います。
教育側からのこうした発言は貴重です。
そのうえで毛利さんは「現場としては定額がいい。また、こうして著作物を使う、こうして作る、という著作権教育が重要だ。」と指摘。同意します。
さて、シンポでは「お寺問題」も提起されました。
文理・工藤さん:寺社仏閣の写真を利用する場合、著作権法の許諾は不要のはずなのだが、「慣例」で寺社におカネを払っている。使用料ではなく、志納金というお布施のような形での支払いを余儀なくされている。
これは関係者からよく耳にする話。
京都の有名寺の写真をデジタルで使おうとしたら、「バチが当たる」と迫られた、など。
法的には支払い不要ですが、法律よりバチのほうが怖い。
料金規定もなく、言い値で払う慣行が続いているそうです。
正規化・健全化に向けた行動、か。難問です。
高井衆議院議員:野党がスキャンダル追求ばかりするので与党は国会の会期を短くしたがる。法案が店晒しにされる危険性がある。この臨時国会で通したい。超党派議連による推進法も同様に早期に通したい。法案はもうできているので、提出と審議を早めることが大事。
DiTT菊池理事:その上でDiTTとして教育版JASRACに向けたシステムを構築したい。教育関係団体、権利者団体に、教材会社=DiTTの枠組みが加われば可能だろう。
これらを踏まえた政官+民間のアクションが重要です。
DiTTは今後も議論とアクションを続けてまいります。
よろしく。
編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2017年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。