がん治療を変革する「ネオアンチゲン」と「リキッドバイプシー」

Google Scholarで「ネオアンチゲン」「リキッドバイオプシー」を検索すると、前者は2013-2015年間で約1670件ヒットしたのに対し、2016年1390件、2017年は今日の時点で1430件であった。「リッキドバイプシー」は2013-2015年で1200件のヒットが、2016年13,800件、2017年は今日の時点で13,100件である。

リキッドバイオプシーは昨年から大きなうねりとなっていることが明らかで、ネオアンチゲンは嵐の前といった感がある。米国癌学会、米国臨床腫瘍学会では、「免疫療法」「リキッドバイオプシー」に関心が高いことはこのブログでも報告してきたが、免疫療法は免疫チックポイント抗体治療の次を見据えておく必要がある。

免疫チェックポイント抗体に関しては、先週号の「New England Journal of Medicine」誌に「Overall Survival with Combined Nivolumab and Ipilimumab in Advanced Melanoma」というタイトルの論文が出ていた。抗PD-1抗体(Nivolumab)単独、抗CTLA-4抗体(Ipilimumab)単独と、両者の併用療法を比較したものだ。36ヶ月時点の生存率で見ると、抗CTLA-4抗体単独では34%、抗PD-1抗体単独では52%、併用療法で58%となっている。併用療法が意味があるかどうかは疑問だ。

ただし、BRAF遺伝子に異常のある症例では、36ヶ月時点の生存率で見ると、抗CTLA-4抗体単独では37%、抗PD-1抗体単独では56%、併用療法で68%となっており、併用療法の方がいいように見える。それに対して、BRAF遺伝子に異常のある症例では、36ヶ月時点の生存率で見ると、抗CTLA-4抗体単独では32%、抗PD-1抗体単独では50%、併用療法で53%となっており、併用療法の利点はほぼないに等しい。グレード3・4の副作用は抗CTLA-4抗体単独では28%、抗PD-1抗体単独では21%、併用療法で59%となっている。やはり、免疫系を二重にブロックすると、患者さんにとってはかなり厳しいことが起きるようだ。論文の結論も、抗CTLA-4抗体単独よりは、抗PD-1抗体単独や併用療法が生存率が高いことにとどまっており、決して併用療法を推奨しているものではない。

多くの臓器のがんでの免疫チェックポイント抗体の臨床試験の結果が報告されており、優れた点と限界が出尽くした感がある。米国では免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせた併用療法が検証されているが、これらは、がん特異的でないのでどうしても自己免疫病的な副作用がより強く出てしまう。時々、講演会などで、免疫チェックポイント阻害剤が、がん組織特異的に作用するように語っている人がいる(シカゴ大学でもそのように説明していた医師がいたので驚きだ)が、知識が上滑りしている。これらの抗体医薬品が、直接がん細胞を殺すと言っている無知な医師には驚きを禁じえない。

見えてきた限界を乗り越えるために重要となってくるのが、リキッドバイオプシーとネオアンチゲン療法だ。ネオアンチゲンは、がん細胞で起こった遺伝子異常によって生み出されるがん特異的な抗原だ。臨床応用が始まっていることを紹介したが、これも考えられていたほど単純には行かない。問題点やノウハウを書くだけのスペースがないが、やはり、しっかりとした免疫学的な考察が必要だ。「当たり前だ(前田)のクラッカーだ」といわれそうだが(こんな親父ギャグがわかるのはそうとの年配だ)、共通したHLAを持っている日本は、この種の研究では絶対的に有利だ。

そして、当然だが、早期治療が重要だ。そこで鍵となるのが、「リキッドバイオプシー」+「ネオアンチゲン療法」の組み合わせだ。手術をしてもリキッドバイオプシーで陽性の患者さんや、一旦、陰性になっても、リキッドバイオプシー陽性になった時点でネオアンチゲン療法を開始すると、生存率が改善すると私は信じている。免疫療法は、がん細胞が少ない方が、圧倒的に有利だ。十分な基礎研究データの蓄積もある。「臨床試験の結果=エビデンス」と信じる、科学的考察力のない人たちは、「エビデンスを出してから言え」と批判するのは確実だ。こんな声を掻き消すために、「エビデンスを出すため」、臨床試験で挑みたいと思う。

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編集部より:この記事は、シカゴ大学医学部内科教授・外科教授、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のシカゴ便り」2017年10月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。