「一見さんお断り」の本当の意味をご存じですか?

2017年11月21日 06:00

舞妓とは、京都の祇園を中心とした五花街で、舞踊、御囃子などの芸で宴席に興を添えることを仕事とする芸妓の見習い段階の少女を指す。舞妓特有の厳しいしきたりがあり、かなりの忍耐が必要とされる。また、舞妓が日中に、花街や花街以外を出歩くことはめずらしく、多くは変装舞妓(舞妓体験してる人)とも言われている。

今回、紹介するのは『京都花街の芸舞妓は知っている 掴むひと 逃すひと』。著者は竹由喜美子(以下、竹由氏)。14歳から踊りの稽古をはじめ、16歳で舞妓になり、5年後に襟替えをして芸妓となる。舞妓の仕事は奥が深いが、私たちが応用できるものはないか探ってみたい。出版はアゴラ出版道場でもお世話になっている「すばる舎」が担当している。

お茶屋遊びに財布が不要な理由?

――京都花街は「一見さんお断り」である。つまり、はじめての人は、お茶屋を利用できない。紹介があって、はじめて座敷にあがることが可能になる。「敷居が高いなあ」という声が聞こえてきそうだ。しかしこれにはちゃんとした理由がある。

「そんなに格式を重んじていたのでは、お客を失い先細りしていくのではないかと思われるかもしれません。こういうしきたりが続いているのには、それなりの理由があるのです。信頼関係にもとづく長いお付き合いをしていくためです。京都花街では、お座敷にあがられたお客様から、その日にお支払いいただくことはありません。」(竹由氏)

「経費はお茶屋が立て替え、後日精算いただくようになっています。お茶屋経由で2次会に行かれたなら、その支払いも移動のタクシー代もすべてお茶屋に請求がくるようになっています。お客様は財布を持っていなくても大丈夫なのです。お客様への請求はお客様への請求は数ヵ月後(場合によっては半年)ということもあります。」(同)

――最近は月締めのところが多くなったようだが、長期掛け払いという京都花街の慣行は、かなりの信頼関係がなければ成立しない。信頼関係は昨日今日知り合ってすぐに生まれるものではない。これが、一見さんをお断りするおおきな理由なのだという。

「ちなみに、仮に、どなたかご紹介者があってお座敷にあがられるようになったかたが、万が一、お茶屋からの請求を踏み倒したならば、その責任を紹介者が負われて、支払いを肩代わりされることもあるそうです。会社を経営されているお客様が話されたことで、いまも鮮明に記憶に残っていることがあります。」(竹由氏)

「そのかたは会社経営で取引先との信頼関係を最重視されており、取引先が値引きを申し出たら『叱る』とおっしゃったのです。取引先の担当者が見積りを持ってきたとき、うーん、と渋い顔をされたそうです。すると相手が、『厳しいですか?では、下げさせていただきましょう』と見積りよりも低い金額を提示しました。」(同)

――担当者は、「ばかもの!」と一喝されたそうだ。見積りを見れば、金額が適正かどうか、ほぼわかる。適正な利益が得られない取引関係は長続きしないから、もっと値引きしますというのは、最初から適正以上に儲かる見積りを提示してきたということになる。そういう信頼関係を崩すようなことをするなという主旨だったようだ。

一見さんお断りの本当の理由とは?

――会社を経営していれば、今回は無理を聞き入れてもらいたい、という事情のときがおたがいにあるものだ。それが頼めるのも、普段から吹っ掛けたり無理やりにごねたりせず、適正金額で取引していればこそなのだろう。

「毎度、値引きを要請していたら、相手は値引きを見込んで見積りを出すようになる。そういう関係は長続きしない、と。『掴むひと』の条件のひとつに、『信頼される』があると思います。信頼は簡単に得られるものではありません。どうすればいいかといえば、長いお付き合いができるように意識することではないでしょうか。」(竹由氏)

「見積もりであれば、一本筋を通していくこと。『これが検討を尽くしたうえでの見積りです。これ以上、値段を下げられる余地は残していません』。こう言い切れるくらいが理想です。『ゆるがないひとは、信用できる。そういう担当者がいる会社と長い付き合いをしていきたい』と思うから、『一見さんはお断り』なのです。」(同)

――京都花街に限らず、格式の高い店には「一見さんお断り」が少なくない。長きにわたる信頼関係を結びたいからこそ、あえてお断りするのが真意なのだろう。京都花街の世界で知り得た処世術とはなにか。チャンス、商機、人の心を掴んで離さない、そのような人物評価を知りたい人にとって最適な一冊である。

参考書籍
京都花街の芸舞妓は知っている 掴むひと 逃すひと』(すばる舎)

尾藤克之
コラムニスト

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