「話を盛る人」「口だけ番長」とはつき合ってはいけない

尾藤 克之

著者であれば誰もが憧れるのが「夢の印税生活」である。「自分に相応しい仕事以外は請けません」と、嫌な仕事は一切請けない。講演やセミナーで全国を飛びまわる。その講演も2年先まで埋まっている。書籍即売会ではファンが行列をなしている。刊行本は数十冊を数え、毎月気がついたら印税が銀行口座に振り込まれている。

今回は、田口智隆さんの『賢いお金持ちが絶対に破らない人づき合いの基準』(秀和システム)を紹介したい。ビジネスパーソンに役立つ、さまざまな場面における意思決定に関するケースがふんだんに用意されている。また、田口さんは、ベストセラー作家で、多くの出版社や編集者が常に注目している1人でもある。

「話を盛る人」とはつき合わない

あなたのオフィスに営業電話がかかってきた。「ここだけの話ですけどね○○でオイシイ物件があります!」「流動性が高くて利回りのいい商品がありますよ!元本保証もします」。確実に儲かるものがあった場合、それが一般に出回ることは理論的に考え難い。元本保証するほどオイシイものなら、私なら他人には紹介せずに自分で購入する。

この世の中に確実に儲かるものなど存在しないが、このような眉唾ものの話を持ち込む人は多い。実は、田口さんは、自分のビジネスパートナーを見極めるとき、「話を盛っていないか」「信用できるか」を基準のひとつにしているそうだ。

「かなり前の話ですが、ある懇親会で1人の男性に話しかけられ提案をされました。当時は、お金に関する講演活動を始めたばかりのころで、積極的に活動を広げたいと考えていました。彼が提案してきたのは、講演会の開催に関する案件でした。『田口さんの講演会を主催するので、ぜひ一緒にやりませんか?』という内容です。」(田口さん)

「彼は、『私のネットワークを使えば数百人はすぐに集めることができます。集客は心配いりません。田口さんは、当日会場で話してくれるだけで構いません』というものでした。すぐにOKを出しました。私にとってはメリットしかない提案だったのです。ただ、一抹の不安がありました。男性が、うさんくさい雰囲気だったのです。」(同)

――講演会まで1週間を切ったころ不安は的中する。このような連絡があった。「田口さんの知名度なら300人はいけると思ったのですが、まだ10人くらいです。正直まいりました。田口さんの知り合いにも来てもらえるよう、どんどん告知してもらってもいいですか?よろしくお願いします」。この物言いには見過ごせないポイントがある。

「集客はすべて自分に任せてほしい」と言いながら、うまくいかなくなったら人に責任を押しつける点である。まるで、田口さんに集客力がないことを責めるような言い方も極めて非礼である。そして、教訓を学ぶことになる。

「結局、当日は20人ほどしか集まらず、空席も目立ちました。その後、主催者の彼から連絡が途絶えたのは言うまでもありません。そんなことがあってから、人を見るようになりました。話を盛っているかどうか、その場で確認するのは困難だと思います。話を盛っている人は、話の節々からうさんくささがにじみ出ています。」(田口さん)

「彼らは、『これをしたら必ずうまくいく』といった成功談ばかり話す傾向があります。ただ、物事は最初から最後まで一直線にうまくいくということはあり得ません。ビジネスの成功には必ず苦労や紆余曲折がありますし、投資も勝ちと負けを繰り返しながら資産を増やしていくものです。自分だけが得をすることもまずありません。」(同)

「口だけ番長」は信用ならない

――今回の田口さんの話は的を射ている。私も、以前、ある業者に次のような提案を受けたことがある。「尾藤さんのアセスメント(適性診断)をパッケージにして売りましょう」「キャリアの公式サイトにもバンドルさせましょう」「過去のケースでは最低100は見込めると思います」。私も、それなりの時間をかけて商品を開発した。

ところが販売の段階になり、カード決裁の手数料が高いので難しいという話になる。当時は、ケータイ公式コンテンツ全盛期の時代。次に、キャリアの承認がどうたらこうたらで下りない。結局、1ヶ月を費やして開発した商品は日の目を見ることはなかった。リスクのまったくないおいしい話を信用してはいいけないと学んだ。

田口さんも、「話を盛っているな……と感じたら要注意」だと述べている。「時間をかけて見極める必要があるが、自分の直感を信じて、その人とのつき合いをやめてもいい」とのこと。たしかに、「うさんくさいなあ」という直感は、だいたい当たっている。直感的に「うさんくさい」と感じたら距離を置くことが賢明かも知れない。

尾藤克之
コラムニスト