「生老病死」の広告も満載
新聞経営の柱であった販売部数は落ち、第2の柱であった広告収入はネット広告に食われ、不動産事業で経営を補強をしている新聞社は増えているでしょう。特に新聞広告は質、金額とも急激に様変わりしています。
そのことを最も痛感したのは、保守、相当に右寄りの月刊誌「Will」(ワック出版)と、これと全く類似している「Hanada」(飛鳥新社)の広告が、複数の全国紙に競うように載り始めたことです。新聞広告の異変です。恐らく少部数でしょうから、どのようにして採算をとっているのか不思議です。
この2誌は、再三の朝日新聞攻撃、徹底した安倍政権擁護、さらに北朝鮮、韓国、中国など反日的な国に対する激しい非難など、確信的な編集方針を売り物にしています。執筆陣には広がりがなく、特定の人が頻繁に登場しています。産経新聞の「正論」路線と同じグループでしょう。
「戦後最大級の虚報、朝日新聞の加計報道を検証する」、「朝日はやっぱり死ね」、「金正恩と日本の核武装」、「尖閣奪取、開戦前夜」など、激しい見出しが躍っています。では自民党の全面支持かと思うと、「石破茂の経済政策は支離滅裂」などの記事があり、安倍政権支援で一本化していますね。
毎日には全ページ広告
今回のテーマは、これらの雑誌の編集内容の論評が対象ではなく、新聞広告からみて、何が起きているのかです。この2誌はほぼ同時に、同程度のスペースの新聞広告をだしています。全国紙では、朝日を除く読売、毎日、産経、日経などです。
広告スペースは全5段(日経は半5段)で、十分に目につく大きさです。驚いたのは、先月でしたか毎日新聞には、どちらかの雑誌がなんと全面広告を掲載していました。掲載料金を合計すると、正規料金ならば、2誌で毎月、何千万円というケタになるはずです。
出版社の経営は厳しさ増しており、厳密に広告の採算を考え、掲載紙、大きさ、回数を決めています。この2誌よりも、収支がいいと思われる「正論」(産経)は、親元の産経に小さな広告を出している程度です。大きな雑誌広告を出すのは、大部数の月刊文芸春秋くらいでしょうか。
こんなに大きな広告を載せていたら、本来なら大赤字です。ですから広告料金を大幅に値下げしてもらっているか、相当な部数の買い取りがあるか、外部からの資金支援があるか、どれかでしょう。新聞社はどこも販売不振が深刻ですから、朝日の部数が落ちればいいと、思って料金を下げているのかもしれません。
新聞全体の信頼度も低下
でもどうなのでしょうか。標的にされている朝日そのものに広告が載れば、影響がでるかもしれません。そうではなく、毎日や日経に朝日叩きの広告が載っても、朝日が受ける影響は少ない。朝日への乗り換えを勧誘員に勧められることを防ぐのも狙いはあるのかもしれません。
とにかく、これまで見られなかった異変です。朝日の部数にある程度の影響がでるとしても、その影響が朝日にとどまらず、新聞全体の信頼低下をもたらしているかもしれないのです。
雑誌といえば、月刊「選択」(選択出版)などの広告も複数の全国紙に載るようになりました。以前は1紙程度でした。雑誌に限らず、これまで全国紙には載らなかった出版物の広告もよく見かけます。料金単価が大幅に下がっているのでしょうか。
日本新聞協会によると、16年度の広告収入は3800億円で、10年前の06年度は7100億円でしたから、半減です。発行部数(一般紙)は17年度が4200万部、09年度は5030万部で、その翌年に5000万部を割りました。
広告に関する変化は、そのほか、単価の高かった自動車が姿を潜めてしまい、家電などはメーカーでなく、量販店がもっぱら折り込み広告(チラシ)で宣伝しています。動画のテレビに広告がシフトし、さらにネットへという潮流の変化です。
出版物を除けば、「生老病死」型の広告が紙面を埋めています。健康食品、通販、旅行などは「生」、老化防止の化粧品、補聴器、老人ホームは「老」、薬品、病院は「病」、生命保険、霊園は「死」とでもいうのでしょうか。要するに中高年向けです。
若い世代が関心を持つ新聞広告は減っています。新聞を読まないし、ネット広告でピンポイントで買いたい商品を探しだす。スマホやパソコンを使っていると、広告の方が消費者の好みに合わせ飛び込んでくる。この面からも若い世代の新聞離れが進みます。
編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年2月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。