「森友決裁文書書き換え問題」は“2つの可能性”を区別することが必要

2018年03月08日 17:00

朝日新聞が、3月2日付朝刊の1面トップで「森友文書 書き換えの疑い」と報じた問題をめぐって、国会が紛糾している。

朝日によると、平成27~28年の学校法人「森友学園」との国有地取引の際、財務省近畿財務局の管財部門が作成した決裁文書について、「契約当時の文書」と、「国有地売却問題の発覚後に国会議員らに開示した文書」の内容が違っていたという。決裁文書は、1枚目に決裁の完了日や局幹部の決裁印が押され、2枚目以降に交渉経緯などが記されており、2つの文書とも、起案日、決裁完了日、番号が同じで、ともに決裁印が押されていたが、「契約当時の文書」では、学園との取引について「特例的な内容となる」「本件の特殊性」「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」「価格提示を行う」との記載があったが、「開示文書」には、これらの文言がなかったことを「確認」したとのことだ。

この問題をめぐって、決裁文書の書き換えが行われたとすると、「公文書偽造」「同変造」「虚偽公文書作成」などの犯罪に当たるのではないかと野党側は財務大臣や財務省を追及し、財務当局側は防戦一方となった。財務省側は、「原本」は大阪地検に提出していて近畿財務局にはないとし、問題の文書が検察の捜査の対象であることを理由に、国会議員に提出したものと異なる決裁文書の「存否」についても回答しなかった。

このような財務省側の対応に対して、与党側からも決裁文書の資料提出を求められたことを受け、3月8日、財務省は、参議院予算委員会理事会に、決裁文書の写しを提出した。それは、国会議員に開示された文書と内容が同一であり、これに対して、野党側は、「書き換え後と思われる資料しか出てこなかった。」などと厳しく批判し、国会審議に応じておらず、事態の収拾の目途はついていない。

国会議員に開示された決裁文書とは異なった内容の決裁文書が財務省内に存在していたとすると、2つの可能性が考えられる。

第一に、決裁文書原本の「写し」として国会議員に開示された資料中、森友学園との交渉経過等についての部分が、開示に当たって書き換えられた可能性だ。この場合、財務省が公文書として管理している決裁文書の「原本」自体は、書き換られず、正しい記載のままになっていることになる。

当時、森友学園問題での朝日新聞を中心とするマスコミ報道を受け、国会でこの問題の追及を受けることになった財務省及び内閣側は、近畿財務局の対応が「森友学園特別扱い」と評価されると、安倍内閣にとっても重大なリスクとなるとの認識があったはずだ。そのリスクは避けたい意向だった財務省本省から報告を求められた近畿財務局側が、上記のような本省側の意向を認識し、本省側に対して「森友学園特別扱い」ではなかったと説明した後に、国会からの要求で、決裁文書を提出することになったとすれば、実際の決裁文書には、「特例的な内容となる」「本件の特殊性」「学園の提案に応じて」などと記載されていたことから、それをそのまま提出すると、それまでの説明が虚偽だということが発覚してしまうということで、2枚目以降の経過説明の部分を、問題がない記載に改めたものを作成して、決裁印が押してある1枚目と合体させて本省に提出し、それが国会議員に提出された可能性がある。

これは、近畿財務局側が書き換えの主体だったという想定だが、もちろん、可能性としては、国会への提出資料について、財務省本省側も関与して書き換えが行われたというケースも全く考えられないことではない。

この第一の可能性の有無については、確認するのは極めて簡単だ。近畿財務局側から大阪地検に任意提出されている決裁文書の「原本」と突き合わせば、国会議員に提出された決裁文書の「写し」が、「原本」と内容が異なるものかどうか一目瞭然だ。

この場合、「写し」の書き換えであっても、有印公文書変造・同行使の犯罪に当たる。判例で、「公文書偽造罪は、公文書に対する公共的信用を保護法益とし、公文書が証明手段としてもつ社会的機能を保護し、社会生活の安定を図ろうとするものであるから、公文書偽造罪の客体となる文書は、これを原本たる公文書そのものに限る根拠はなく、たとえ原本の写であつても、原本と同一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有するものと認められる限り、これに含まれるものと解するのが相当」とされているので(最判昭和51年4月30日)、決裁文書の写しが書き換えされて国会議員に提出されたとすれば、有印公文書変造の重大な犯罪が成立することになる。

決裁文書の「原本」は、当該行政行為を行った財務省が、責任を持って保管すべき公文書であり、国会議員に提出した資料について、それが原本と異なるのではないかとの疑いが持たれているのであれば、その「原本」を示して、「写し」が「原本」と相違ないことを明らかにするのは行政官庁として当然の義務だ。

決裁文書の「原本」が検察官に任意提出されていて財務省側の手元にないとしても、それが、「捜索」ではなく、「任意提出」によって検察の管理下にあるのであれば、あくまで「任意」の提出なのであるから、財務省側で、その提出した文書自体を使用する必要が生じたとして検察官に要請して、一旦返還をしてもらうことができる。捜索差押ではなく、任意提出という手段をとったということであれば、検察官としては、その内容を、提出者の財務局側に秘匿しておく必要があるとは判断していないということだからだ。検察としても、返還に支障があるとは思えないし、少なくとも、任意提出者の財務局に文書の写しをとらせることは捜査の支障となるものではない。その結果、決裁文書「原本」と、開示した決裁文書原本の「写し」が同一であることが確認できれば、少なくとも、第一の可能性は否定できるのである。財務省側で検察と交渉し、その点を明らかにすることは、行政文書原本の管理者である財務省当局の当然の義務と言うべきであろう。

そこで、仮に、第一の公文書原本の「写し」の書き換えの可能性が否定された場合、第二の可能性として問題となるのが、公文書として財務省が管理しておくべき決裁文書「原本」そのものが、最終的に現在の内容になるまでの間に、書き換えられた可能性だ。いずれかの段階で、現在大阪地検に任意提出されている「原本」と言われている文書とは異なる内容の「本当の原本」が存在していたが、政府答弁に整合する内容に書き換えられ、それが国会議員に提出されたという可能性だ。この場合、国会議員に開示された決裁文書は、現在の正式な決裁文書とは異ならないことになる。

決裁文書として存在していた「本当の原本」そのものが書き換えられたとすれば、公文書管理法によって適切に管理することとされている公文書を、行政機関自身が組織的に書き換えたということになる。それは、有印公文書偽造・変造等に該当する「前代未聞の重大な公務員犯罪」だ。

しかし、現在、大阪地検に提出されている最終的な決裁文書の「原本」とは異なる内容の「本当の原本」が、どの時点で、どのような形で存在していたのかが明らかにされなければ、そのような重大な犯罪行為が組織的に行われたことの嫌疑があるとは言えない。

つまり、大阪地検が任意提出を受けた決裁文書「原本」と開示された「写し」が同一であることが確認され、第一の「公文書書き換え」の可能性が否定された場合には、第二の「公文書書き換え」の可能性の有無が問題になるのであるから、それを指摘するためには、朝日新聞が、その根拠を具体的に示すことが必要となる。スクープ記事で、「確認」したとする「開示文書とは異なる決裁文書原本」が、実際に存在することを示さなければならない。

朝日新聞の報道に関しては、「情報源」及び「確認」の方法について、様々な可能性が考えられる。可能性が高いのは、財務省の内部告発者からの情報又は資料の入手、検察関係者からの情報又は資料の入手の二つだ。

前者については、内部告発者の資料の真偽に問題がなかったのかどうか、が重要だ。一般的に、内部告発には様々な動機・事情が考えられる。極端な場合、決裁文書の「原本」として朝日新聞が確認したものが、すでに「書き換え」されたものである可能性もないではない。また、後者の検察関係者からの入手の場合、それ自体が、捜査情報漏洩という全くの違法行為であるので、情報源は絶対に明らかにすることはできず、事は非常に厄介だ。

以上のとおり、今回の「森友決裁文書書き換え問題」については、2つの可能性に分けて考える必要がある。第一は、行政庁である財務省の国会への報告に関して、虚偽説明や書き替えられた文書の提示が行われた可能性であり、「財務省」対「国会」という問題だ。行政機関が行政文書の原本を国会に提示するのは当然であり、検察の捜査や任意提出は言い訳にならない。

一方、第二の可能性は、国会との関係だけではなく、「財務省」という行政組織の内部で、その意思決定のプロセスを正確に記録しておくべき決裁文書の原本が組織内で偽造・変造されたという、組織自体の正当性に関わる問題だ。もし、朝日新聞が、その嫌疑の根拠を提示した場合には、財務省としても、第三者委員会等を設置して徹底的に調査することが必要になるであろうし、検察捜査にも最大限協力すべきであることは言うまでもない。

第一の可能性の問題が「一回表」の攻防だとすると、そこで行われるべきことは、まず、財務省側が、大阪地検に保管されているという最終的な決裁文書の原本を提示することだ。それによって、攻防は「一回裏」に入り、そこでは、決裁文書の原本が、現在の内容になるまでの間に、内容が異なる決裁文書が存在していたことについて、朝日新聞が具体的に資料を提示することが必要となる。

ところが、この二つの可能性、両者の攻撃防禦が混同され、場外乱闘状態となって、野党と政府の攻防や、マスコミ報道が行われている。それが、一層の混乱を招いているように思える。


編集部より:このブログは「郷原信郎が斬る」2018年3月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は、こちらをご覧ください。

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