裁量労働制に関する議論はなんでいつまでたってもグダグダなのか

城 繁幸

今週のメルマガの前半部の紹介です。国会で働き方改革をめぐる議論が続いていますが、とりあえず裁量労働制の拡大については野党側の根強い反対によりいったん見送られることになりました。

ただ、そのやり取りがあまりにも低レベルで本質的な議論がまったくなされておらず、たんなる足の引っ張り合いに終始しています。そもそも「役人が作った資料が間違ってた、責任取れ」って言うんなら資料作らせた民主党側にも責任はあるわけで単なる泥仕合です。

【参考リンク】不備の厚労省調査 旧民主党政権が計画

ていうか公務員に「わざと非協力することで倒閣できるパワーを認める」ってアレですか、帝國陸軍そのものじゃないですか。

という具合にあの論戦はもうはっきり言って一円の役にも立っていません。税金の無駄です。大手メディアの論調も見当違いなものがほとんどで、有権者の間でも議論が深まる気配はありません。

というわけで、今回は裁量労働制度のめぐる議論はなぜ迷走しているのか。本来何が議論されるべきなのかをまとめておきましょう。個人のキャリアを考える上でも非常に重要なテーマです。

裁量労働制度が日本で馴染みにくいワケ

諸外国のホワイトカラーの間では一般的な裁量労働ですが、日本では一部の職に限定され、その職種においてもあまり良い評判は聞きません(だから野党サイドが反対するのも一理あるとは思います)。

なぜか。それは、日本のサラリーマンには“裁量”がほとんどないからです。たとえば「今日はボク暇なんで午後から出社しますね」って課長にメール打って出社できる人なんているでしょうか。いませんね。やったら確実にビンタかまされます。あと「自分の業務はちゃっちゃとやっちゃったんでデートもあるし定時に帰りますね」と言える人もいるでしょうか。たぶん「みんなまだまだ頑張ってるんだからお前も何か手伝え!」とネクタイひっつかまれるのがオチでしょう。

ではなぜ日本のサラリーマンには裁量がないのでしょうか。それは日本の独特の賃金制度が原因です。他国で一般的な職務給というのは担当する職務に値札が付くもので、当然ながら入社時に詳細な業務範囲、内容を契約書で交わします。要するにゴールがはっきりしているわけです。

一方の日本では職能給という個人の年功に値札が付く賃金が一般的で、入社して配属されるまでなにをやらされるのかわからない、配属されても明確な業務範囲がなく、とりあえず大部屋で机を並べてみんなで一緒に仕事をする中で評価される、というのが一般的です。「遅くまで残業している人が評価されやすい」とか「みんな残業してるんだからお前もやれ」みたいな空気はぜんぶここに根っこがあるわけです。

こういう状況で「これからは裁量を発揮して自由にやってくれ」と言われても、普通のサラリーマンは困惑するだけでしょう。何がゴールなのかぜんぜんわかりませんから。

よく左翼の人たちが口にする「裁量労働制は定額使い放題だ」という批判も実は間違いではなくて、業務範囲が曖昧で裁量の無いまま導入してしまうと、自分の担当業務が終わってもどんどん新しい仕事が降ってくるという現象は確かに起こりえます。本来の裁量労働というのは事前に担当業務の範囲を明確化した上で行うものなので“使い放題”なんてことは絶対ありえないんですけどね。

ちなみに筆者はねちねちと裁量労働制度の対象職種をつつきあうよりも「つべこべ言わずに大卒のホワイトカラーは全員裁量労働制で勝負しろ、裁量労働したくない根性無しは大学なんか行くな」というスタンスですが、それには業務範囲を明確にして裁量もセットで配ることが条件だと昔から考えています。

【参考リンク】残業チキンレースにそろそろサヨナラしよう!

というような日本型雇用の本質をついた議論を期待していたにもかかわらずノーガードでうんこぶつけあうような論戦をみせられたらたまったもんじゃないですね。

以降、
与野党の皆さんにアドバイスしたい攻め方
個人が上手く裁量労働を利用するポイント

※詳細はメルマガにて(夜間飛行)

Q:「“プレミアムフライデー”を廃止するには何をすればいいんでしょうか?」
→A:「各人が責任と裁量をもって仕事に取り組む社会にする以外ありません」

Q:「組織の足元を見て交渉するのはアリ?」
→A:「問題ありません」

ショートショート「逆転満塁サヨナラホームラン」

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編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2018年3月8日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。