メディアは金正恩を独裁者と呼ぼう

中村 仁

衝撃を与えた金正恩氏の電撃訪中(朝鮮中央通信より引用:編集部)

死語にすべき尊称「最高指導者」

米朝首脳会談が行われ、核放棄へ尽力するとの合意がなされました。「朝鮮半島の非核化、段階的、同時並行の措置」という表現は、米韓にも同等の措置を求めていくとの意味とみられ、いずれ白紙状態に戻ってしまうのでしょうね。

私が以前から気になっているのは、金正恩・朝鮮労働党委員長に対する「北朝鮮の最高指導者」という尊称です。国民を劣悪な生活環境に置き、ひたすら核ミサイル開発に奔走する危険な人物には「朝鮮労働党委員長」という呼称で十分なのに、なぜまた「最高指導者」を言い直すのか。

独裁者と切り捨てる米国紙

英字新聞の「ジャパンタイムズ」(ニューヨークタイムズ版)の3月29日付を見ましたら、まず1面では「young dictatars’ first trip abroad」(若い独裁者の初の海外訪問)でした。あっさりと「独裁者」ですよ。5面では「北朝鮮の指導者は列車で移動した」です。社説欄でも「北朝鮮の指導者金正恩」です。どういう地位にいるかを示したいのなら、せいぜい「指導者」でしょう。

日本の新聞で「独裁者」と表記したのは、産経新聞です。社説で「独裁者が自ら動いたこと(訪中)で驚きが広がった」としました。社説には「2011年に最高指導者となってから初の外遊だった」と、「最高指導者」も登場します。北の政治体制でトップの座についたとの意味を込めたとすれば、歴史的経緯を紹介したと、考えれば許容範囲でしょうか。

北朝鮮を長い間、「朝鮮民主主義人民共和国」と正式名称で新聞に書いていたのが朝日新聞です。他紙が「北朝鮮」の略称に切り替えた後も、民主主義でも共和国でもない国を、正式な名称で書いていました。朝日にとっては、北朝鮮がよほど大切な国なのでしょう。

ひど過ぎないか朝日新聞

その朝日新聞は、1面で「2012年、朝鮮労働党第1書記(委員長)の就任後、最高指導者としての訪中は初めて」、「今回の訪中は最高指導者自らが外交に臨む強い決意を示した」と、金氏を持ち上げています。社説では「最高指導者となった金氏が外遊するのは初めて」と、随分、丁重な記述です。

読売新聞は社説で「北朝鮮の最高指導者になっていらい、外国訪問は初めて」と、似たような表現があります。恐らく「格付けでトップとなった」ことの説明であり、「最高指導者が外国訪問した」という意味使ったのではありますまい。そうであったとし、「朝鮮労働党委員長」で十分です。

毎日新聞の社説は「権力を握って6年余りにして外国訪問」という表現で、これならいいでしょう。新聞に掲載された朝鮮中央通信(国営)の発表文の要旨では、「両国指導者」です。わざわざ「最高指導者」と、最大級の尊称を奉っているのは日本のメディアくらいでしょう。北朝鮮の人民がそれを知ったら、泣きますよ。

29日の朝刊(読売新聞)に掲載された識者の談話では、中国国際関係学院副委員長が「中朝両国の最高指導者は・・」という尊称で呼んでいました。米国のシンクタンク部長は「労働党委員長」、韓国人の大学教授も「労働党委員長」でした。日本のメディアは言語感覚をもっと磨くべきです。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年3月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。