「首相案件」の何が“違法”なのか?野党は140字で説明してね

新田 哲史

きのう(10日)朝、起きてツイッターをみたら「首相案件」がトレンドの圧倒的1位に躍り出ていた。その前夜、NHKが加計学園問題で「ないとされていた文書があった」という報道をしており、朝日がさらにド級のネタを突っ込んでくるという観測もあったので「また朝日か」と、目をこすりながらウンザリしたツイートを追いかけると、案の定だった。ツイッターでは、蓮舫氏や小池晃氏など野党のおなじみの“こんな人たち”が記事を拾って、鬼の首を取ったかのように安倍首相追及で早朝から怪気炎をあげていた。

(なお、けさのアゴラでも中村仁さん早川忠孝さんは安倍首相退陣の流れが決まったかのように書かれている。政権運営が困難になっているのは確かだが、退陣を断定するにはいささか早いのではないか….)

話を昨日に戻す。起きてから、朝日のデジタル版の会員には入っているので取り急ぎ記事をみてみた

今回は財務省のときの初報と異なり、文書は断片的に提示はしている。柳瀬首相秘書官(当時)の「本件は、首相案件となっており…」の部分も明示されている。ただ、2枚組らしき記録文書の1枚目らしきものは、なぜか左上部分の一部しか開示されておらず、奇異にも感じた。朝日がゲットしたブツは、愛媛県から政府関係者に渡っていたもののようで、隠された右上には、情報源の特定につながる痕跡らしきものがあったのかもしれない。結局、中村時広知事の夕方の臨時記者会見後に全文をネットで流していたが、流したタイミングも何か関係があるのだろう。

「首相案件」の何が違法なの?

財務省の件では安倍政権に大打撃を与え、安倍政権倒閣へ攻勢をかけたい朝日。しかし、加計学園問題に関しては「総理のご意向」報道を巡り、ミスリードした“前科”が国会でも自民党議員に槍玉にあげられたことがあった。「首相案件」といっても前後の文脈、場合によっては、この文書そのものが作られた経緯も踏まえないと、何かまた取り違えや切り取りによる印象操作に終わるのではないか…..記事を一読した直後は、そんな疑念だけが残った。

その後、紙面も取り寄せたが、中身がさっぱりわからない。黒地に白抜きの「面会記録に「首相案件」」という見出しが目に飛び込む。現職首相が世紀の大犯罪をおかしたかのような仰々しい紙面づくりだが、書いてあることの「どこが違法?」なのだろうか。

財務省の件は、虚偽公文書作成罪と公文書偽造・変造罪、公用文書等毀棄罪に問われる可能性がある。また、自衛隊の日報問題と同じでなかったはずの文書が存在し、朝日の記事の結びで数行つけ足されているように首相が「私が関与したと言った人は一人もいない」と過去に述べたこととの矛盾はある。

しかし、直接の違法性はあるのか。柳瀬氏に応対した愛媛県職員による「備忘録」の位置づけについて、中村知事は、文書自体は報告用に作ったメモで公文書ではないとの見解を示した。その是非は置いておき、まず、この時点で、法的には、あきらかに公文書である自衛隊の日報とは性格が異なる。

証人喚問やるのは勝手だが、丁寧に立証してほしい

私が思う焦点は、柳瀬氏の「首相案件」発言と、首相の国会答弁との2つの矛盾だ。柳瀬氏は報道を受けてコメントを発表。問題の発言どころか面会の事実すら否定している。せっかちな野党議員は柳瀬氏の証人喚問の必要をまくしたてているそうだが、柳瀬氏のコメントがもし(野党や朝日新聞がおそらく期待しているように)虚偽だったとして、実際に発言があったとしても、今度は「本件は、首相案件」という言葉の意味をきちんと検証する必要があろう。

たとえば、本件という意味が「加計学園ありきの獣医学部設置案件」(=特定)なのか、「首相肝いりで進めていた国家戦略特区」(=全体)なのかで全く意味が違ってくる。これについては時系列のファクトが検証材料の一つになる。国家戦略特区WG座長だった八田達夫氏が去年の段階で述べているように、今治市が加計学園誘致を念頭に獣医学部設置に名乗りを上げたのは2015年6月5日。今回の備忘録はその2ヶ月前の4月13日付になるから、表向きの動きだけをみれば、加計学園ありきだったのかどうか微妙なところもある。

もちろん、備忘録が書いているのは「下交渉」だ。参加した当事者が、さまざまな前提を暗黙裡に共有していた可能性は排除できない。だから、野党と朝日は、下交渉が実際にあったとすれば、当事者の証言など直接的な証拠を立証する必要がある。

しかし、百歩譲って、柳瀬氏が(参加していたとして)「加計ありき」を内々に認識した上で発言していたとしても、愛媛県と松山市が2009年の民主党政権時代に国に行った構造改革特区提案において、加計学園の獣医学部構想は記載されている。政権が変わっても、愛媛県、松山市で獣医学部設置を目指すなら、加計学園で進めることは容易に想定されたはずだ。

また、「首相案件」の発言をリアルにしていたとしても、それが首相の支持が具体的にあったのかどうか「共謀」の証拠を示す必要が出てくるのではないか。そんなことは刑法の専門家ならずとも、柳瀬氏が(参加していたとして)総理の威を借りて独断で言ってしまった可能性も排除できないことは考えられる。

とはいえ、首相の把握していた時期と備忘録の信ぴょう性の勝負に

一方、安倍首相サイドに不利な材料があるのは、国会答弁で事実と異なる発言をした疑いがつきまとうことだ。中村知事が職員の作成だと認めた備忘録の最後に、首相と加計理事長が会食し、「下村文科大臣が加計学園は課題への回答もなくけしからんといっているとの発言があった」との記述があることから、首相が加計学園による獣医学部設置の動きを、公式見解の17年1月より早く把握していた疑惑が浮上し、野党や朝日新聞を色めき立たせている。

この疑惑の指摘に対し、首相はきょう(11日)の衆院予算委で、加計氏とは2014年6月から12月にかけ、3回会食したことを認めたものの、「獣医学部新設の相談や依頼は一切ない」と強調した。そうなると、中村知事が「職員を信じる」と言い切った備忘録の信ぴょう性があらためて問われることになるが、このあたりは柳瀬元秘書官への証人喚問などを通じて、どちらが嘘をついているのかの勝負になる。

その意味では、朝日にリークした、愛媛県関係者から備忘録を入手したとされる「政府関係者」がどこの馬の骨なのか、ここも含めて判断してほしいところだ。安倍首相を支持するネット民の中には、前川元次官のイメージからか文科省の関与を疑う声も出ている。

首相擁護ありきではない。から騒ぎはもうたくさんだ

誤解をされても心外だが、私は、野党の「首相の関与ありき」朝日の「倒閣ありき」のように、「首相の擁護ありき」「朝日新聞叩きありき」でこのようなことを書いているのではない。安倍政権の政策は、安全保障と電波改革は支持しているが、アベノミクスや東京23区の大学入学規制などにはむしろ批判的だ。なんでも安倍首相推しのリフレ派のオッさんたちとは違う。もし首相が嘘をついていたのであれば、違法性の有無よりも、政治倫理の問題となり、政治責任を取らなければならないことも言っておく。

しかし、備忘録の信ぴょう性は問われてしかるべきとはいえ、法的にどうなのか、野党や朝日新聞側の言い分をみていると、なんだかよくわからない。傍証頼みの加勢に任せて雑に追及してきたから、1年以上かけても首相の首をとれなかったのではないか。

此の期に及んで、ネチネチとうるさいのは、年々メディアも巻き込み、ネットの伝播力も加わって政界の情報戦が激しくなって印象操作がはびこる懸念が強くなっていると思うからだ。その流れで、法治国家としての丁寧な立証からどんどん遠ざかり、過去に詐欺罪で有罪判決を受けた議員や、国籍法違反の二重国籍のまま野党第1党党首に一時なった議員が、我がことを忘れ、調子ぶっこいて安倍政権を非難していることへの違和感を強く抱いているから、こうして苦言するのだ。

ひとまず、野党の人たちには秘書官発言の何が「違法」なのか、ぜひツイッターで一有権者の疑問に140字で答えていただければと思う。ハッシュタグは「#首相案件」にしよう。

いまの朝日・野党の“反アベ倒閣同盟軍”をみていると、サッカーにたとえればペナルティエリアで騒がしく動くが、シュートをふかして決定力に欠けるFWを想起してしまう。証人喚問をやるにもテレビカメラ向けに騒ぎ立てる政治的パフォーマンスはいい加減にしてほしい。国民を「から騒ぎ」に巻き込み、結果として内政・外交の懸案が手付かずとなることだけは、もうたくさんだ。安倍首相の首を取りたければ直接証拠でゴールを決めてくれ。決定力のないFWは日本代表に不要だ。

なお、今回の備忘録もそうだが、一連の公文書問題はすべて我が国の欧米各国より遅れに遅れた取り扱いに帰結する。特に職員が私的にとったメモがトラブルの元凶となることが繰り返されており、内閣府の資料によれば、アメリカでは、初期段階のドラフト、概略メモ等についても要件を満たせば、「連邦記録」として確実に維持することを義務付けている。

内閣府資料より

ブロックチェーン技術導入とともに、メモについてもどこまで残すべきか、線引きの改定を含めて、与野党ともに(特に民主党政権を経験した野党議員には)G7で笑い者レベルの公文書管理から脱却できるよう、実効性のある改革に取り組んでいただきたい。