ベネズエラのマドゥロ大統領に燻り続ける二重国籍疑惑

白石 和幸

マドゥロ大統領(UN Geneva/flickr:編集部)

ラテンアメリカを始め米国はベネズエラのマドゥロ大統領を政権から座から引きづり下ろすことに色々と取り組んでいる。そのひとつにマドゥロがベネズエラ人ではなく、コロンビアで生まれたコロンビア人だということをベネズエラ社会で流布させて、彼を政権の座から引きずり下ろそうとする動きが2013年に起きた。2年前のベネズエラ最高裁で「大統領はベネズエラのカラカス出身」とする判決が出た後も、疑惑は燻り続けている。

ベネズエラの憲法では大統領になるにはベネズエラの国籍を有する者で、二重国籍者は大統領になれないと規定されているからである。

余談乍ら、ペルーのフジモリ大統領も彼が独裁者であれば、同じことが起きていたであろう。彼はペルー人であり、また日本国籍も持っていた二重国籍者だった。ペルーも二重国籍者は大統領には成れないと同国憲法に規定されている。即ち、フジモリはペルーの大統領には成れなかった人物だった。それは一部の者だけしか知らなかったようである。しかし、独裁者で敵が多くなればそれを暴くことなど容易であったはずだ。

本題に戻って、米国マイアミを基盤とするスペイン語圏メディア『El Nuevo Herald紙』はコロンビアのアンドゥレス・パストゥラナ元大統領(1988-2002)が新たに入手した証拠書類から、ベネズエラのマドゥロ大統領はコロンビアの国籍を有する人物で、ベネズエラの大統領には成れないことを証明した。

パストゥラナがそれを証明するのに根拠にした情報というのは、マドゥロの母親テレサ・デ・ヘスス・モロスが洗礼を受けた時の証明書を手に入れたということで、それには母親がコロンビア国籍を保持していたことが証明されているというのである。

即ち、パストゥラナが主張しているのは、コロンビアの憲法ではコロンビアの国籍を持つ父親又は母親から生まれた子供はコロンビア国籍を有するとされており、またベネズエラの憲法では二重国籍を持った者は大統領に成れないと規定されていることから、マドゥロ大統領は即刻辞任すべきであるということなのである。

また、歴史研究家でベネズエラの元議員だったウォルター・マケスの調査でもマドゥロはコロンビアの首都ボゴタ生まれで、2歳の時にベネズエラに移民したというのを明らかにしている。彼が調査を進めて行く中で10人以上が彼の調査結果の証人になっているそうだ。その中の5人はボゴタに住んでおり、マドゥロの幼少の頃を知っているというのだ。

これに先立ち、2016年にもコロンビアのCaracol TVがマドゥロの母親テレサ・デ・ヘスス・モロスの出生届、洗礼証明書が存在していることをベネズエラの国会議員デニス・フェルナンデスら複数の人物が調査で明らかにしたことをニュース番組で報じた。

更に遡って、2013年にもスペインでは『ABC』がマドゥロは1961年11月22日にベネズエラと国境を分かつコロンビアのククタ市で生まれたことを証明する出生届を米州機構(OAS)のパナマ大使ギリェルモ・コチェスが手に入れて、それをコロンビアのテレビNTN24で語ったことを報じた。

この出生届が本物だと実証されているのかいう質問に同大使は「それは実証されていないが、彼の父親ニコラス・マドゥロ、母親テレサ・デ・ヘスス・モロス・アセベド、姉テレサ・デ・ヘスス・モロスの3人はコロンビア国籍を有する人物だというのは実証されている」と述べて、よって息子のニコラス・マドゥロは当然コロンビア人だとした。

更に、同大使はマドゥロがコロンビア人であることから、「ニコラス・マドゥロは大統領のポストはこの先も続けることはできない」と述べ、「憲法を冒涜し、ベネズエラ人に与えられている大統領のポストを横領した罪で収監されるべきだ」と語った。そして、後任の大統領を選らぶ選挙を前倒して実施すべきだと述べた。

更にそれを裏付けることとして、コチェス大使が指摘しているのは、同棲していたシリア・フローレス(制憲議会の前議長)と2013年7月15日に正式に民事結婚する際に、カラカス市長のホルヘ・ロドリゲスが証人となった。が、その折にマドゥロの出生届が提出された形跡が全くないということもコチェス大使が指摘した。ベネズエラでは婚姻届けに署名するには事前に出生届けの提出が義務となっているからである。

それに反して、マドゥロに近い筋が明らかにしたところによると、出生届は提出されたとされている。その場合でも、生まれた場所についてカラカス市の二つの教区のどちらかだと憶測されているというが、公表されていない。

マドゥロはこれまで彼の出生についてあたかも国家機密であるかのように公にするのを避けているというのだ。

また、同大使が指摘しているが、カラカス市長のホルヘ・ロドリゲスという人物は前大統領チャベスの親派で、色々とスキャンダルを引き起こしている人物だという。2009年にはパナマの銀行で3600万ドル(39億6000円)を横領したことでもよく知られている人物だとした。

マドゥロが生誕地がボゴタなのかククタなのか調査結果に違いがあるが、この二つの都市はいずれもコロンビアにある。マドゥロは1991年にバスの運転手になり、労働組合員となって活躍を始めるのである。

当時、チャベスが推進していたボリバル革命MBR-200に共鳴し、チャベスの革命に協力するのである。2006年に外相として入閣し、次第にチャベスの信頼を厚いものとし、チャベスが病気になった時に憲法の規定から言えば、議会議長の軍人デオスダド・カベーリョが後継者になるべきであったが、チャベスは敢えてマドゥロを後継者に指名した。そして、チャベスの亡き後、マドゥロが大統領に就くのであった。

最近のベネズエラの動きは軍人の現政権への不満が次第に表面化しているということである。一部軍人の蜂起がメディアでも取り上げられるようになっている。その背景には、軍人もベネズエラ市民と同様に物質不足と高騰インフレで苦しい生活を余儀なくさせられているからである。