老人ホームの入居体験者が語る意外な弱点

2018年06月25日 06:00

足腰が弱るバリアフリー

2025年には、団塊の世代が皆、後期高齢者となります。新聞広告が不況を嘆くなかで、老人ホームの全面広告がでかでかと、紙面を飾っています。少なくともしばらくは、好況業種なのでしょう。私の知人が奥さんを亡くし、老人ホームに入ったところ、想像もしていなかった弱点に気がつき始めました。考えようによっては、それが生命を縮めるかもしれないのです。

80歳代になった方は恐らく、パソコンにも不慣れです。ですから入居体験記はなかなかお目にかかれません。実際は、いいことづくめの広告よりも、このような体験記のほうがずっと貴重な情報源だと思います。評論家による「老人ホームの選び方」といった宣伝臭の強い記事より、役に立ちます。

米寿(88歳)を迎えた知人は、現役時代に日本を代表する電機メーカーの役員でしたので、パソコンは今も自在に使いこなし、時々、ネットに投稿しています。老人ホーム世代を迎えつつある方々の参考になると思い、知人の体験記録を紹介いたします。

一年半で亡くなられたのは2人

正式名称は介護付きケアハウスで、1年半前の開設と同時に入居しました。入居者は40数人で、大半は女性です。この間、亡くなられた方は2人です。管理者側から見て、4,5年で入居者が亡くなられ、そっくり入れ替わるという計算で、入居契約時の一時金を決めているそうです。入居者がハウスで長生きすれば得、短命に終わったら、経済計算上では損となります。

亡くなられた方はともかく、執筆者の観察では、「入居当初に元気だった方々もほぼ全員が3歳くらい、加齢したよう見える」。知人は週に何日か、気分転換のために、まだ維持している自宅に泊まりに帰ります。ハウスにずっといると、気がめいってくるのです。時々、ハウスを離れることがあるため、入居者の変化に敏感なのでしょう。

「当初は足腰が丈夫で自立できた人にも、車いすの世話になる姿が目立つ」。転倒防止のため、バリアフリーにしてあり、階段の昇降をなくし、段差もない設計です。ですから、「足腰の筋肉が衰え、たまの外出時では、ちょっとした坂道でも息が切れたり、駅の階段の上り下りがきつくなる」。こうなると、バリアフリーも良し悪しで、施設内で体力維持の運動が必要になります。

栄養管理、カロリー管理にも心配な点があると、いいます。「体重70㌔男性も、45㌔の婦人も原則として、同じ分量の食事をとる。何から何まで世話をしてもらううちに、運動不足から、糖尿病予備軍になるのではないか」と、心配しています。

原形をとどめない副食物

食事は歯がなくても食べられ、誤嚥性肺炎を防ぐために、柔らかく煮込んであります。そのため「噛むことによる脳への刺激がなくなり、ボケを促進するのではないか。原型をとどめないほど刻んであるので、何を食べているのは分からなくなる」。これは深刻な問題です。

せっかく家族に代わり、ハウスが万事、世話をするうちに、新たな問題を引き起こす。「元気なうちは自分のことは自分でする」ことが、健康寿命を伸ばします。執筆者はご自分の体験からいくつかの提案をしています。「車椅子が不要になった人は年間、何人か」、「寝たきり状態や痴ほう状態を脱出できた人は何人か」などのデータをとり、体力改善の目標を設けたらどうかといいます。

家族や知人は「よいケアハウスに入られ、よかったですね、安心ですね」と思っています。「ところが入居者からすると、自分ですることがないハウス生活が新たな悩みを生んでいる」。

新聞広告や案内パンフレットには、「建物の概要、施設の説明、ケアの体制、介護者の人数、スタッフの質、食事の内容、リクリエーションの紹介、入居金、費用、運営母体の財務状況」など、魅力的な点ばかりが強調されています。知人の書いた体験記は、入居者でしか分からない問題点が指摘されている貴重な情報といえましょう。


編集部より:このブログは「新聞記者OBが書くニュース物語 中村仁のブログ」2018年6月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、中村氏のブログをご覧ください。

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中村 仁
ジャーナリスト、元読売新聞記者

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