トランプ米大統領は22日、北朝鮮の核兵器は米国にとって「異常で並外れた脅威」と指摘し、金正恩政権に対する制裁を1年延長すると米議会に伝えたという。米朝首脳会談で曖昧のままだった北朝鮮の非核化の現状を考えればいい決定だ。シンガポールで署名した4項目の共同宣言では「朝鮮半島の非核化」という項目があったが、北朝鮮の詳細な非核化のロードマップ「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)が記述されていなかったことから懸念する声が聞かれた。トランプ大統領が対北制裁を今後1年間延期すると決定したことは現時点で最善の対応だ。
歴史上初の米朝首脳会談後、何が進展したのだろうか。トランプ氏は、米韓軍事演習の暫定停止が決まったほか、韓国動乱時に戦死した米兵らの遺骨200柱を北朝鮮から返還されたとして、両国首脳の合意がすでに成果を上げていると主張している。
韓国聯合ニュースによると、米国の北朝鮮分析サイト「38ノース」は21日、米朝首脳会談後に撮影された衛星写真を基に、「北朝鮮北西部・東倉里のミサイル発射場(西海衛星発射場)でミサイルエンジン実験用の発射台を解体するなどの目立った活動は見られない」と伝えた。金正恩朝鮮労働党委員長はシンガポールの米朝首脳会談でミサイルエンジン実験場を「近く破壊する」と約束したが、まだ実施されていないわけだ。トランプ氏が主張するほど米朝合意内容の履行は順調に進んでいるとはいえない。
北の非核化を考える場合、最も重要なステップは非核化の米朝実務協議の開催だが、まだ開催されていない。ポンペオ米国務長官は北との実務協議で今後の非核化プロセスを詰めていきたい意向だ。同国務長官が対北朝鮮制裁については、「完全な非核化が行われてから制裁などを緩和することになる」と表明し、対北政策で揺れが見られないことは評価できる。
トランプ氏はシンガポールの米朝首脳会談直後、ツイッターで「もはや北朝鮮の核の脅威はない」と発信したが、ポンぺオ国務長官はトランプ大統領の現実認識と完全には一致していない。明確な点は、北の非核化はまだ始まってもいないのだ。楽観視できる状況は一つもない。
当コラム欄でも指摘したが、北朝鮮が非核化プロセスを曖昧にし、時間稼ぎすれば対北制裁は永久に解除されないことを繰り返し確認することだ。北側が伝統の時間稼ぎ路線を取れば、「自身の首を絞めることになる」という警告を発することだ。
もちろん、中国やロシアが朝鮮半島の融和雰囲気を理由に、北側に経済支援をした場合、国際社会は厳格な対応をすべきだ。北の完全な非核化実現まで制裁を緩めてはならないのだ(「米朝の『宣言文』より『制裁』の維持を」2018年6月14日参考)。
トランプ氏は11月の中間選挙後、対北政策を再び軌道修正する可能性が考えられる。金正恩氏が米国の選挙カードを利用できる時間は限られている。北が非核化に応じない場合、トランプ氏に残るカードは軍事力の行使だ。トランプ氏は金正恩氏に直通の電話番号を渡したのだから、金正恩氏にその旨を直接連絡すればいい。
時間は今、北側に不利だ。時間稼ぎすれば、制裁解除は遅れるだけではなく、米国の軍事カードが再び高まるからだ。金正恩氏が今年に入り既に3度も中国を訪問し、習近平国家主席と会見した背後には、体制保持でこれまで以上に中国の支援が必要となってきたからだ。トランプ氏も安倍晋三首相も焦ることはない。北が本当に非核化を実施するかを慎重に観察し、あらゆる手段でそれを検証するればいいだけだ。
日本のメディアの一部で日本が北の非核化費用を負担するという報道が流れている。非核化費用とは一体何だろうか。それは本来、北側指導者の懐に入るものではない。非核化の費用とは具体的に米国側に支払わなければならない運送代、核施設の解体費、機材代、人件費などだ。
核拡散防止条約(NPT) によれば、北の核兵器を持ち込むことができる国は核保有国しかない。北の場合、北の核兵器を中国やロシアに運ぶことはできないから、米国が引き取ることになる。核検証では国際原子力機関(IAEA)の査察員を利用できるが、米国は自国の専門査察員をより信頼するだろう。その場合、米国側に財政負担となる。
すなわち、北の非核化費用とは主に米国側が担う費用といえる。その意味で、米朝枠組み合意に基づいた朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の軽水炉建設プロジェクトへの拠出とは違う。もちろん、故金大中大統領が南北首脳会談を実現するために払ったお土産代でもない。
「日韓が北の非核化費用を負担すべきだ」というトランプ氏の主張はある意味で当然かもしれないが、北の非核化費用を負担する以上、日本は北の非核化の検証状況について情報の共有と一定の発言権を米朝側に要求すべきだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2018年6月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。