「さよなら、おっさん」「小泉VS安倍」が示唆する近未来の相克

2018年06月28日 06:00

日経広告、政府サイト、小泉氏FBより作成:編集部

NewsPicksがおととい(26日)日経新聞に掲載したキャンペーン広告「さよなら、おっさん。」が良くも悪くも話題になっている。

編集部見解として、財務事務次官のセクハラ、日本大学アメフト部の危険タックル問題などを引き合いに「今年に入ってから世間をにぎわせている問題には共通点がある」「このまま「おっさん的価値観」が日本の経済界を支配し続けると、日本企業も日本経済も衰退し続けてしまう、という強烈な危機感がある」と指摘した上で、

おっさん中心の価値観、おっさん中心のシステムから生まれたものであるということです。男性優位かつ上意下達かつ年功序列かつ終身雇用かつ生え抜き重視。そうした社会で生きてきた人と、よりフラットで多様な社会で生きてきた人とのあつれきが一気に噴出しているのです。

などと問題意識を表明している。

ただ、刺激的な打ち出し方とあって、NewsPicksユーザーの愛読者が多い新興経済勢力においてすら賛否は拮抗しているようだ。たとえば小泉進次郎氏のブレーンの一人、高木新平氏などは既存の権威に対して先鋭的だったイメージの彼にしては意外なほど辛辣だ。

また、元経産省の起業家、宇佐…じゃなかった望月優大氏も「世代間対立の煽動」だと厳しく批評しているが、マーケティングの専門家界隈では、山口義宏氏がいまの野党の伸び悩みを引き合いに「排他の手法は反発も生むので、後々で自分の勢力拡大の足かせにもなり、その塩梅が難しい」と評しながらも、「大局的に見れば販促効果としては理にかなっているコミュニケーション戦略」などと理解を示している。

私個人の意見としては山口氏に近い。そもそもNewsPicksは、世間的には都市部の先進的なニュースアプリユーザーの領域から脱却できているとは言い難いし、日経新聞界隈にようやく“殴り込み”をかけられる段階になったばかりだ。いつまでもこのトーン&マナーを続けられるとは思わないが、高木氏が言う「悪手中の悪手」は、ゆきすぎた酷評だろう。

そもそもNewsPicksの佐々木紀彦CCO(前編集長)は東洋経済オンライン在職中から、イノベーター層やアーリーアダプター層への訴求を得意としている。その先端的な“西海岸”エリアから東(オールドエコノミー)を眺め、募らせていた苛立ちを発露したともみることができる。

佐々木氏のFacebookには、槍玉にあげられた「おじさん」世代からも賛同者が出現。その一人である冨山和彦氏に佐々木氏がコメント上で「さよなら、おじさん。」の書籍執筆を依頼し、その場で快諾するやり取りもみられた。おそらくNewsPicksとコラボしている、幻冬舎の箕輪厚介氏プロデュースで年内には出版されるのであろう。

私自身も「平成で終わらせられなかった“昭和”」という事象に問題意識を強く持っているから、一定の理解はできる。実は某大手出版社とその企画で相談しはじめていたので、「冨山 & 佐々木 & 箕輪」本が出現するなら切り口相当考えないと売れないな、無名の私など吹き飛ばされるな、あぁ面倒だ(苦笑)

安倍シンパのアンチ進次郎シフトに予見する政界の世代間闘争

それはそうと、この日本の政治・経済・社会に行き渡る「平成で終わらせられなかった“昭和”」を、何時おしまいにするのか、その時機によって世代間の利益相反が発生することは必至だし、今後2020年前後を境に各界である種の闘争なり、相克なりがますます激しくなってくるのだろう。角界で貴乃花親方はパージされてしまったが、政界では小泉進次郎氏に対する風当たりが強くなる気配も出ている。

折しも、きのう献本いただいた月刊Hanadaの最新号の看板記事は、朝日新聞と法廷バトル中の小川榮太郎氏が『小泉進次郎への直言』と題して、痛烈な批判を浴びせている。

月刊Hanada2018年8月号
花田紀凱責任編集
飛鳥新社
2018-06-26

 

政局的な文脈で読むと、これは総裁選をにらんだ安倍首相シンパがロックオンするターゲットが石破茂氏から小泉氏に徐々にシフトしつつあるようにも見える。石破氏は一般国民を対象にした世論調査では一定の支持を得ており、延長国会終了時にも正式に出馬表明するようだが、しかし党内の支持は広がっているとは言い難いからだ。

共同通信の最新の総裁選情勢調査によれば、安倍首相が清和会(細田派)、志公会(麻生派)、志帥会(二階派)などの支持を固め、議員票では過半数を上回る公算で、石破氏や野田聖子氏らの挑戦を退けるという順当なシナリオが固まり始めている。

「Hanada」8月号より

しかし小泉氏が、仮に石破氏や野田氏支持を鮮明にし、今回の総裁選で比重を増す党員投票に賭けた場合、それなりに善戦する可能性は否定できない。安倍首相ファンたちに「小川論文」が支持される背景には(小川氏がそうだというつもりではないが)、楽勝ムードにあって数少ない懸念材料をつぶしておきたい本音があるのではないか。

たとえば、この「小川論文」に好意的な人のツイートからはプレゼン上手な小泉氏を攻撃し、まさに「苛立ち」を感じさせる。

月刊Hanada最新8月号所収・小川榮太郎氏『小泉進次郎への直言』は溜め息が出る様な素晴らしい論文だ。筆頭副幹事長として、発言の自由よりも「立場」を守れと諭し、「改革」を掲げ「政局」にすり替えていく政治手法を批判。「政局臭」のない安倍総理の「国家観」に比べ、小泉氏はまだ遠く及ばないのだ

折しも昨日は、小泉氏が仲間の若手議員たちと「国会改革」の提言を発表したが、よりによって安倍首相は、提言発表の数時間前の党首討論で、立民の枝野氏への皮肉を込めたとはいえ、「党首討論の歴史的役割は終わった」などと発言した。

安倍政権をそれなりに評価する私でもこれには違和感を覚えた。いまの野党は相撲で言えば軽量級の力士たちばかりなのだから、モリカケでどんな不毛な仕掛けをしてきても泰然自若とした「横綱」相撲でいなしてみせるべきだった。貴重な論戦の舞台を全否定しているととられかねない「失言」をしたように思う。

思わぬ形で小泉氏の提言がさらに注目され、国会改革が「安倍VS小泉」のアジェンダの一つとしてクローズアップされるかもしれない。

「小泉・宏池会・NewsPicks的」文化 VS 「安倍・清和会・Hanada的」文化

小泉氏はどこの派閥にも所属していないが、その言動からにじみでる価値観のようなものは、父の純一郎氏や安倍首相が所属する清和会的なカルチャーとは違うようにもみえる。どちらかといえば、政策提言などで脇を固める若手議員が所属していることもあってか、「宏池会」的なカルチャー、つまりダイバーシティーやボトムアップ、程よい自律分散志向、持続可能型社会などを重んじるリベラル的気風のほうがマッチしている。

清和会カルチャーは、森喜朗氏が首相の頃は典型的な「根回し調整型」だったが、いまは純一郎氏、安倍氏のように強烈なリーダーシップを発揮する「中央集権」型に変貌した。民主党政権の失敗で経済、安全保障がガタガタになったのを、ここまで再起させるには、そうしたスタイルがあっていただろう。そして安倍政権が長期化するにつれ、政治以外のジャンルでも何か清和会的、中央集権型カルチャーを尊ぶ気風が強まった。

反面、モリカケで正面突破をはかるように体育会的、統制的な気質は、「男性優位かつ上意下達かつ年功序列かつ終身雇用かつ生え抜き重視」という、NewsPicksがまさに批判する「おじさん社会」「昭和型」を彷彿させる面もある。

安倍政権はたしかに女性活躍に力を入れるなど経済社会政策では「リベラル」シフトをしてきたが、その一方で、男女問題や喫煙を巡る失言をする議員に清和会所属が目立つのも、本来の気風が悪い形で表出したように思う。

これに対し、財務省のセクハラ問題や、日大タックル問題(パワハラ)といった「昭和型」の世界をもし変えていこうという気風を吹かせるならば、やはり清和会的な価値観よりは宏池会的(&小泉的)な価値観のほうが向いているかもしれない。

ただし、だからと言って、私個人が、宏池会的(&小泉的)カルチャーを全面支持かというと、逡巡はある。

たしかに感度の良さで時流をとらえてはいるのだが、加藤の乱のリアルタイム世代としては政局での弱さの記憶がひっかかる。トランプやプーチン、習近平、金正恩といった中央集権型リーダー、あるいはグーグル、アマゾン等のアメリカ経済を牽引するグローバル資本を向こうに丁々発止、渡り合えるだけの力強さを持つのかは未知数だ。

それに小泉氏に懐疑的な安倍シンパの人たちの中には経験や実績の不足を指摘する意見も出始めている。

新旧リーダーを記号に日本社会の世代間の相克を論じる

「安倍と小泉」「HanadaとNewsPicks」といった強引な比較、あるいは政界文脈を超えて、日本社会の時流の変化にまで広げて考察してみようという本稿の無謀な試みは、浅学非才の身には重荷だったかもしれない。

私自身は清和会にも宏池会にも親しい政治家はいるし、Hanadaの花田紀凱編集長も、NewsPicksの佐々木CCOも存じ上げていて、それぞれロールモデルとしてリスペクトし、零細メディアを預かる私自身の編集長業務にも随所に生かしてきた。

奇遇にも、それぞれの考え方を知る立場にあるので、どちらがよいとか悪いかというのではなく、それぞれの個性や長所短所を私なりに論じることで、元号の変わり目を挟んだ向こう数年、政治以外のさまざまなジャンルも含めて社会の各所で起きていく世代交代、いや世代間の相克を考える上で、安倍首相、小泉氏を「記号」にした一つの視点となれば幸いだ。

(なお、余談だがアゴラの編集長になる前、NewsPicks入りを佐々木氏から軽く打診されたことがあり、その時は前向きだったが、佐々木氏以外の編集部員全員が私の入社に反対したとのことでお互いゲンナリしてしまった。私もずいぶんと嫌われたものだ(苦笑)。もし私がNewsPicksに入っていればアゴラを預かることもなかっただろうし、その後、NewsPicksと対立することになる蓮舫氏の二重国籍問題の発掘もなかったかもしれず、蓮舫体制が続いていれば前原さんの代表就任はなくて、ひょっとしたら小池さんの無謀な野党再編・四分五裂劇もなかったかもしれない…というわけで自民党はNewsPicksに感謝したほうがよいかも…いや冗談です、笑)

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新田 哲史
アゴラ編集長/株式会社ソーシャルラボ代表取締役社長/NPO法人ICPF 情報通信政策フォーラム理事

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