日本舞踊とは、能・狂言・歌舞伎・文楽と並ぶ日本の伝統芸能のひとつである。踊りの起源は、日本神話にまでさかのぼる。天照大神(アマテラスオオミカミ)が立てこもった天岩戸を開けようと、天鈿女命(アメノウズメノミコト)が天岩戸の前で踊り、それを観衆がはやし立てる声を聞いた天照大神は思わず岩戸を開けてしまったという神話が残されている。
その後、中国から芸能が伝来し、民の中から「田楽」「猿楽」が生まれ、「能楽」「狂言」に発展する。日本舞踊はどのように誕生し現在に受け継がれてきたのか。今回は、坂東流師範(坂東ありか日本舞踊教室)の「坂東ありか」さんに歴史や魅力について伺った。
歌舞伎の元祖「出雲の阿国」(いずものおくに)とは
「日本舞踊は現在、歌舞伎の演目由来のいわゆる歌舞伎舞踊を中心とする「踊り」と、上方舞や京舞などお座敷舞の流れを汲む「舞」の2つに大別されます。歌舞伎のはじまりは『かぶき踊り』を始めた『出雲の阿国』です。当時、最先端の奇抜なファッションをした人は『傾奇者(かぶきもの)』と呼ばれたのですが、出雲の阿国は女でありながら男装をし、常識外れの出で立ちで『かぶき踊り』を日本各地で披露し評判となりました。」(坂東さん)
「その人気を受けて、女性たちが演じる『女歌舞伎(おんなかぶき)』、少年たちによる『若衆歌舞伎(わかしゅうかぶき)』が始まりますが、いずれも風紀を乱すという理由で江戸幕府に禁止されます。しかしながらその後も様々な変遷を経て、現在の歌舞伎の姿に落ち着いていきます。」
――坂東さんによれば、歌舞伎の語源は「傾(かぶ)く」のようである。歴史的には、奇抜な振る舞いをする人を「傾奇者」と言うが、必ずしもそうではない。歴史上有名な傾奇者は優雅で勇ましく、その時々の世の中の最先端を駆け抜ける異端児だった。織田信長、前田慶次郎、雑賀孫市は「傾奇者」と称されるが、彼らの生涯からは歴史の本質を学ぶことができる。
「江戸中期以降に『女狂言師(女性芸人)』が登場します。歌舞伎舞踊を中心に芸を演じることを職業とし、男性禁制の大奥に上がり、その時々の流行りの歌舞伎の演目を披露しました。お屋敷へ上がらない日は町師匠として町家の子女に稽古をつけていたといい、これが今日の日本舞踊のお師匠さんの始まりのようです。」(坂東さん)
日本舞踊の魅力とはなにか
――日本舞踊の代表的な流派は五大流派と呼ばれる。そのひとつ、坂東流は歌舞伎役者・三代目坂東三津五郎を流祖とし、『浅妻船』『傀儡師』『源太』『玉兎』『汐汲』『まかしょ』など、三代目が初演した作品は現在も日本舞踊の定番として広く親しまれている。
日本舞踊の魅力とは?坂東さんに解説していただく。
「日本舞踊の魅力のひとつは、数百年をさかのぼる伝統芸能に自ら参加し、触れられることです。一見、敷居が高そうに思われますが、浴衣一枚と舞扇一本で誰にでも簡単にはじめられるお稽古事です。作品の背景を知れば、現代にも通じる日本人のユーモア、艶っぽさ、豊かな感性に驚かされることでしょう。
日常では、浴衣や着物を自分で着られるようになること、美しい立ち居ふるまいや礼儀作法が身につくことも魅力ではないでしょうか。日本人が一番よく似合う着物を着こなし、三味線や琴の音に合わせて踊る時間は、日常を超えた感性が培われる特別な時間です。」
――坂東さんは、踊りを踊る時には、「自分の足、指先まで意識を向けることが必要」とのこと。それはどのようなことか?
「曲に合わせて指先や視線といった、体の隅々にまで意識を向けます。指先を揃えてしなやかに動かすことひとつ取っても、はじめは難しく感じられる方もいらっしゃいます。日本舞踊特有の優雅でなめらかな動きや姿勢は意外に筋力を使います。踊りをされている方は年齢を重ねても元気で若々しい方が多いのですが、それは見かけよりも運動量が多く、筋力や体幹が自然と鍛えられるためだと思います。」
「日本舞踊は「芸道」の一つです。ひとつの「道」を学ぶことは、人間性の成長にも繋がります。外面だけでなく内面までも磨かれていく感覚です。日本舞踊を学ぶことで、きっと新しい自分の魅力に出会えるのではないでしょうか。」(同)
日本舞踊の醍醐味は資格取得
「坂東流では入門して3年以上経つと名取試験が受けられます。長唄「松の緑」という曲を家元、試験官の先生方の前で踊ります。(年令が13才以上ですのでお子様の場合はその年令まで試験を受けることができません)。合格すると「坂東○○」という踊りの名前を授かり、自称することができます。その後は、坂東会の様々な行事や青年部の活動に参加することができます。
名取試験に合格したら師範名取の試験を受けることができます。試験に合格後は、師範名取としてお弟子さんを育てることが可能になります。」(同)
――6月も終わり、鮮やかな着物姿を目にすることが増えた。日本舞踊のロマンに思いを馳せ、この機会に日本舞踊の伝統に触れてはいかがだろうか。
尾藤克之
コラムニスト