誠実で優れた石破茂氏を総理の座に推せない唯一の理由

早川 忠孝

言葉に嘘がなく、古武士のような風格を感じさせる政治家で、その一言一言に魅力を感じているのだが、肝腎の憲法の議論で意見を異にしているので、私は最終的にこの方を推すことが出来ない。

石破茂氏のことである。

顔に似合わず、優しい。

自衛官に掛ける言葉の一言一言に、ご本人の熱誠が籠められており、どこをどう切り取っても、この方は本物の政治家である。

大方の国民がこの方を担ぎ出すのならあえて異を唱えることはしないが、しかし、この方は一国を束ねることは無理だろうと思っている。

野党時代に作られた自民党の憲法改正草案の大宗は、石破氏が書き上げたのだろうと推測している。

自民党内で博士(はかせ)と綽名が付いていたくらいだから、自民党の中で憲法議論を戦わせて石破氏に勝てる人がいなかったから、野党時代の自民党が作った憲法改正草案はああいう先鋭的で、かつやや偏頗な案になってしまったのだと思うが、私がいた当時に纏められた自民党の当初の憲法改正案はもう少しマイルドなものだったと思う。

自民党の中でも色々議論が分かれていたはずだが、この人があくまで国防軍の創設を主張していると、一般の自民党の国会議員がこれに異を唱えるのが難しい。
内心では反対していても、真正面から石破氏に論戦を挑めるほどに憲法論議に通暁していた国会議員は匆々はいなかったはずである。

軍事オタク、国防オタクと称されていた石破氏の憲法議論は、日本の憲法学者や内閣法制局、衆参両院の法制局の通説ないし常識的理解からかけ離れたところがあり、普通であればそれがそのまま自民党の憲法改正草案に反映されるようなことはなかったと思うが、野党に転落した自民党の中では寧ろ石破氏のような先鋭的な主張の方が支持されやすかったのだと思う。

私は、自民党の憲法改正草案の内容には否定的なので、憲法議論をすることになると石破氏の反対側に立つことになる。

政治家としては一目も二目も置いているが、しかし、石破氏の憲法論議には賛成できない。

私が岸田さんに蹶起を促したのは、岸田さんの憲法観の方がかつての自民党の思潮の本流にある、と思っていたからである。

なんにしても、自民党の総裁選は、憲法論議がメインのテーマになりそうである。
しかし、岸田さんが出馬しないことが決まってしまうと、外野席の私たちが口を挟む余地がなくなってしまいそうだ。

ちょっと困ったな、というところだ。

安倍さんがよれよれになって岸田さんが後を襲う、という展開がよかったのだが・・・

沖縄の翁長さんはあまり無理をされない方がいいだろうと、良識派の方々の多くは思っておられるのではないか。

痛々しくてとても見ていられないのだが、翁長さんを相変わらず無理無理担ぎ出そうとされる方々がおられる。
政策や政治信条の点だけで考えれば、必ずしも翁長さんに固執する必要はないと思うのだが、選挙戦を有利に進めるためには翁長さんを担ぎ出すしかない、と考えておられる方が結構おられるのだろう。

翁長さんもけっこう人がいい方のようだから、皆さんから再三にわたって頼み込まれたら、病身を押して、あえて出馬する、ということになるのだろう。

気の毒なことである。

政治家は、実に因果な商売である。
本当に倒れなければ、解放してもらえない。

ご本人の健康状態や家庭の平穏や平安などはお構いなし、というところがある。

私などは、翁長さんにはもう少し楽にしていただいた方がいいと思っているのだが、イデオロギー優先の方々は個人の都合など考えるべきではない、政治家は自分の政治信条を貫くために自分の一身をも犠牲にすべし、とでも思っておられるのだろうか。

安倍総理を担がれる方々にも似たようなところがある。

安倍総理も本当は満身創痍で、ご家庭はボロボロ、といったところだと思っているが、それでも安倍総理にしか今の国政は束ねられない、と信じておられる方が相当におられるようだ。

余人をもって代え難い、とはよく聞く言葉だが、私は信じていない。

安倍総理をボロボロになるまで使い回すようなことはしない方がいいのだが、と私は思っているが、安倍総理の周辺の方はそういうことにはあまり関心がなさそうだ。

安倍総理が最近元気なようである。
少なくとも、ボロボロにはなっていない。

しかし、いつかは、よれよれになるはずである。

岸田さんには、その時に備えておいて欲しかった。


編集部より:この記事は、弁護士・元衆議院議員、早川忠孝氏のブログ 2018年7月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は早川氏の公式ブログ「早川忠孝の一念発起・日々新たに」をご覧ください。