元オウム真理教信者、広瀬健一死刑囚の手記について

2018年07月27日 06:00

広瀬健一元死刑囚(Abema newsより:編集部)

ども宇佐美です。
どうやら本日オウム真理教関係の残り6人の死刑囚(岡崎一明、横山真人、端本悟、林泰男、豊田亨、広瀬健一)の死刑が執行されたようです。

この6人の中でとりわけ私が興味を惹かれるのは広瀬健一死刑囚です。(刑が執行されましたが、このように呼ばせていただきます。)広瀬死刑囚は1964年生まれで、早稲田大学の付属校から早稲田大学理工学部応用物理学科に進学し、同学部を首席で卒業し総代を務め、その後同大大学院に進学し超電導分野で研究成果を上げさらに大手電機企業への就職も決まっていました。

しかし、1988年3月にオウム真理教に入信、1989年に出家し、その後は教団武装化のキーマンとして自動小銃密造などに携わり、地下鉄サリン事件の実行犯として逮捕され、死刑判決を受けました。

具体的な時期はわかりませんが、広瀬死刑囚は事件後オウム真理教から脱会し、教団が起こした事件に対する反省の意思を述べるようになりました。これほど優秀な人物が、なぜオウム真理教に入信し、また、テロ事件を起こすに至ったのか、私はどうしても知りたかったのですが、幸か不幸か彼はその点について詳細な手記を残しています。

広瀬死刑囚は刑の執行を受けて罪を償った立場ですから、本日は彼の冥福を祈り、また二度と地下鉄サリン事件のようなテロ事件が起きないよう実行犯の立場からの教訓を残す意味を込めて、その手記の中で印象深かった記述を簡単に補足しつつ抜粋してまとめておこうと思います。(注釈は「オウム真理教大辞典」を参考にしています)

以下広瀬健一死刑囚の手記からの引用です。

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①なぜオウム 入信したのか、という点について

入信の原因は、麻原の書著を読んだところ、それに記載の宗教的経験(クンダリニーの覚醒*1)を伴った突然の宗教的回心*2)が起き、オウムの教義の世界観が現実として感じられるようになったことです。

*1: オウム真理教の教義上の概念で尾てい骨に眠っているとされるエネルギー
*2: 宗教精神学(Pastoral Psychology)では宗教的回心を経た回心者について「回心者は神学的体系や社会的システムの全体を無垢に受容する。自身の宗教的経験を検討し、疑う動機を奪われる。過度に、非理性的に強い信念を抱く」とする。

②物理の専門家として麻原の空中浮遊は不自然とは思わなかったのか?

私が信徒時に、空中浮揚を信じていたのは事実です。突然の宗教的回心によって、私はオウムのあらゆる教義を強く受容するようになったのです。このタイプの回心においては、常識に反する教義でも強く受容されると多くの文献で指摘されていますが、私もその例外ではありませんでした。もちろん回心前の私は、解脱・悟りの教義と、経験的に教義を検証するオウムの姿勢(これは見かけだけのものでしたが)とに関心を持ったものの、教義の大部分は半ばフィクションのようにしか感じられませんでした。

ところが突然、私にとってオウムの教義の世界観は現実と化したのです。なお、「空中浮揚は慣性の法則に反する」という論理では、空中浮揚を否定できません。既知の物理法則を超える法則の存在は、〝論理によっては〟否定できないのです。つまり物理法則は、それが見かけ上成立する領域(条件)が不明な部分があるのです。ですから、ある領域において現象が未知の法則に支配される可能性は否定できません。言い換えると、物理法則は常に成立するものとして定義できないのです。それは、ニュートンの運動法則を超える相対論、量子力学・場の量子論が発見されて発展してきた物理学の歴史が示すとおりです。

③麻原の指示に従って違法行為をするのに葛藤はあったか?

すべての信徒ではないかもしれませんが、ほとんどの信徒が葛藤なく指示に従ったのではないでしょうか。それだけ完全に、信徒は世界観――価値観や規範意識を含む――が教義に沿うものに変容しているように見受けられました。〜私は第一審時に共犯者の公判で、次の趣旨の供述もしました。

「指示が私の存在していた宗教的世界観に合致していたので、従わなくてはならないと強く思ったということではない。その指示自体が自然に、違和感なく受け入れられる状態になっていた」
「サリン袋を傘で刺すときためらいはなく、感情を抑えることもなく、してはいけないことだとも思わなかった」

前者の供述は、地下鉄サリン事件の指示について、〝麻原の指示だから自身の意思に反しても従わなければならないと思ったということではなく、ヴァジラヤーナ*3)の救済のための当然の指示と感じた〟という意味です。当時、私は教義の世界で生きている状態でした。このように、誠に非道なことでしたが、私は葛藤なく麻原の指示に従っていました。

*3: グルの意思をすべての事柄より優先させる修行。オウム 内部ではグルとは麻原のみをさす。

④麻原およびオウム真理教信者はなぜ一連のテロ事件を起こしたのか?

私が知る限りにおいて、直接動機として説得力を持つのは、麻原の宗教的経験――アビラケツノミコトとして戦えと神から啓示を受けた経験*4)――以外にありません。宗教的経験に思考・行動が強く影響される状況は、オウムの信徒についてもそのままあてはまりました。信徒もまた、幻覚的な宗教的経験が豊富だったのです。信徒は教義どおりの宗教的経験をしていたために、教義の世界観を現実のこととして認識していました。現代人が三悪趣*5)に転生することも、それを救済する能力を麻原が具有することも、麻原の説く教えは一切が現実でした。そのために信徒は、破壊的活動を命じる麻原の指示に従ったのです。人々の救済と認識して。

*4: 1985年5月に麻原は「神に西暦二一〇〇年から二二〇〇年頃にシャンバラ(理想郷)が地上に興ることを告げられ、またその実現のために麻原がアビラケツノミコトとして戦うように命じられた」としている。
*5: オウム真理教の教義上、人間界より低いとされる、地獄界、動物界、餓鬼界、を総称してこう呼ぶ。

⑤オウム の教義の特異性について

時間の経過につれて(伝統的な)宗教・思想は、教義が理論的に精緻になる一方、一部の実践的な要素は欠落していきました。そのために今や、教義は信者にとって、直接的な経験とは乖離しがちになり、現実性という影響力が減衰していると言っても過言ではないでしょう。たとえば、来世の転生先を本気で心配する信者は稀ではないでしょうか。それに対してオウムの教義・修行の体系においては、原始的な実践が復活していました。そのため信徒にとっては、主要な教義は経験可能でした。結果として信徒は、教義を目で見、手で触れることができるような現実として認識するようになり、思考・行動が教義に沿うものになったのです。人が通常、自身の周囲に存在する〝現実〟に適応して思考・行動するように。実際信徒は、教義の世界観に対する現実感がこの世に対するそれを凌駕すると、一般社会から離脱して出家していきました。

⑥オウムにおける麻原の地位について

ここで、麻原について説明させていただく必要があるでしょう。麻原は教義上、カルマ*6)の浄化に不可欠な存在だったからです。輪廻の原理とカルマの法則*6)が支配するオウムの宗教的世界において、麻原は「神=救済者」といえる存在でした。カルマを滅尽した最終解脱者であり、苦界に転生する運命にある私たちのカルマを浄化し、私たちを幸福な世界への転生、ひいては解脱に導くことのできる「神通力」を具有するとされていたからです。〜「なぜあの男が」――麻原が教団において絶対的な存在になったことに対する疑問の声を聞きます。信徒の脳内には宗教的経験によって、「麻原は神である」という認識――感情、あるいはムードといったほうが正確かもしれません――が誘起されていたのです。麻原のいかなる言動を見ようとも、それに対する理性的判断を飛び越えて、ダイレクトに。

*6: 善悪の行為は因果の道理により、のちにその結果を生むという教え。ここでいう善悪は一般の概念ではなく、オウム では自己の都合で教義において善悪の行為を定義しており、通常の社会生活を行うと悪行が積み重なるとされていた。例えば、蚊を殺したり、グルメを楽しんだり、スポーツを楽しんだりすることは悪行とされていた。他方オウム に布施したり、信徒を勧誘することは善行とされていた。

⑦麻原がテロを決意したのはいつごろか、について

1988年10月28日、麻原は出家者に対して(以下のような)説法をしました。

『わたしは今から三年前に、これは『トワイライトゾーン』を使って、わたしはアビラケツノミコトであると、そして光の軍勢を率いて救済するんだと、そういう比喩を使っている。当初、初めは、わたしはね、凡夫を救済するのがわたしの役割だろうと考えていた。しかし、近ごろわたしは心が少しずつ変わってきている。どのように変わってきているかというと、ひょっとしたら、動物化した、あるいは餓鬼化した、あるいは地獄化したこの人間社会というものの救済は不可能なのかもしれないなと。そして、じゃあどうしたらいいかというと、新しい種、つまり、今の人間よりも霊性のずっと高い種、これを残すことがわたしの役割なのかもしれないなと。』

ここで、「今の人間よりも霊性の高い種、これを残す」とは、オウムの信徒のみを残し、それ以外の人類を殺害することを意味します。その目的で麻原は、一九九〇年に猛毒のボツリヌス・トキシン*7を世界中に散布することを企図しました。ヴァジラヤーナの救済として。ですからこの説法は、ヴァジラヤーナの救済へと踏み出す麻原の意思を示すと考えていいでしょう。

*7: 現在知られている中でもっとも強力な毒素の一つと言われる。麻原が製造を指示したが遠藤誠一が製造に失敗した。

⑧教団武装化の計画性について

以上のように1988年の秋頃には、麻原の内面において、ヴァジラヤーナの救済の野望は押さえ難いものになっていたようです。そして、この救済へ向かう意思を示した説法の約三週間後、麻原は側近の大師に対し、後のオウムの動きに関して指示しました。その大師が作成したメモを次に示します。

・1988年11月5日は黙示録の予言を麻原が七つの予言その後世界戦争。2000年まであと一二年しかない。滅亡の日を出版しろと

・(11月)15日、オウムの方向性・・・旧約聖書によるとオウムの時間はあと七年、石油になってハルマゲドン、ソ、米、日世界大戦デザイン編集がプロパガンダマシンに完璧になりきること(人材と経済力のためでもある)

一.新信徒の獲得、

二.人材ハンター(ブレーンハンター)(信徒の中から選ぶ)、

三.大学理数化学の人材をぬきとる、

四.ドクター(医者)を集める、

五.美人を集める(看板)、

六.経済的センスを持っている人間(プロパガンダ=広報)

七.法律専門家

八.大師(一人で二~三億)が5000人

九.建築班1000人

一〇.7年後大師だけで一四五〇〇億

*意味が通らない部分もあるが原文ママ

⑨ボツリヌス菌を通じた全世界テロに関する麻原の指示について

1990年4月10日ごろの麻原の言説

現代人が悪業を積んでいるために、地球が三悪趣化し、宇宙の秩序が乱れている。それを我々が正さなければならない。これから上九(上九一色村)で培養するのは、ボツリヌス菌である。この菌が生産するボツリヌス・トキシンは、少量でも吸い込むと呼吸中枢に作用し、呼吸が停止する。そしてサマディーに至り、ポア*8)される。

このボツリヌス・トキシンを気球に載せ、世界中に撒く。これは、第二次世界大戦中に日本軍が行った「風船爆弾」の方法である。中世ヨーロッパでペストが流行したときは黒死病といわれたが、今回の病は白死病といわれるだろう。ここで、なぜ我々がやらなければならないのか、疑問が生じるかもしれない。これは本来、神々がやることだが、神々がやると天変地異を使い、残すべき者を残せないから我々がやるんだ。

そして、縁ある者を地球に転生させて、真理の実践をさせる。今回の衆院選は、私のマハーヤーナ*9)の救済のテストケースだった。その結果、マハーヤーナでは救済できないことが分かったから、これからはヴァジラヤーナでいく。これは最初から分かっていたことだが、私もだいぶ悩んだんだ。なあ○○、私はちょうど一年前にもこのようなことを言ってたよな。

*8: オウム 真理教における殺人の隠語。オウム真理教では(オウム の基準での)悪行をなす人物を殺人することによって、その人物の悪行を止めることは(オウム の基準での)善行とされた。
*9: 全ての人物をオウム真理教に引き入れて救済を目指すこと。衆院選出馬はこのアプローチによる救済と位置付けられた。

⑩衆院選惨敗がテロの契機になった点について

ヴァジラヤーナの救済を麻原が行動に移した(結果は伴いませんでしたが)契機は、自ら述べているように、衆院選での落選と考えて矛盾はありません。その蹉跌によって麻原は、現代人は救済し難いとの認識をより深め、かかる衆生を救済する手段といわれるヴァジラヤーナへと舵を切ったのでしょう。それが、「マハーヤーナでは救済できないことが分かったから、これからはヴァジラヤーナでいく」という言葉の意味です。本質的には前述のように、ヴァジラヤーナの救済の野望が臨界近くまで達していた麻原に、衆院選での惨敗という刺激が加わったに過ぎないのかもしれませんが。なお、「これは最初から分かっていた」という麻原の言葉については、額面どおり受け取れない部分があります。それはむしろ、落選する結果になる衆院選に出馬したことの正当化でしょう。

まず麻原は衆院選について、落選を最初から承知の上で敢えてテストしたという状況ではなく、当選を目指して真剣に取り組んでいました。たとえば一九八九年一二月から翌年一月頃、麻原は私に電話で、「わしは当選するかどうか心配でしょうがないんだよ」と漏らしたり、「(衆院選に関する報道で、麻原を)泡沫候補とか言っているが、今に見てろよ」と話したりしていたのです。

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昨日大学生と話す機会があったのですが、地下鉄サリン事件の後に生まれた世代であることもあり、この事件についてみなほとんど知りませんでした。今なお続くオウム真理教が起こした事件の被害者の後遺症の問題も含めて、この問題をどのように語り継ぐべきなのか、私としては明確な答えを持っておらず、非常に考えさせられるものがありました。

では今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のblog」2018年7月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のblogをご覧ください。

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