大阪は富山の7倍:犯罪被害指数でみる日本の治安格差 --- 平 勇輝

2018年08月25日 06:00

各国の政府機関や警察等の法執行機関が公表する犯罪統計は、その国や地域の犯罪情勢や治安の良し悪しをマクロ的な視点から分析する上でとても貴重なデータをもたらしてくれます。日本では、警察庁が毎年詳細な犯罪統計データを編纂しており、これらは警察庁の公式ホームページ上で一般向けに公開されています。

犯罪統計に時系列的・地理的な枠組みに基づいた考察を加えていくことで、特定の期間や場所における犯罪件数の増減や集散していく様子を捉えていくことができます。こうしたデータは、より効果的な刑事政策や犯罪対策を立案したり、より効率的な警察の運用計画を立てたりする上で重要な役割を果たしてきました。

その一方で、犯罪学者の間では、犯罪統計が本質的に持つとされる問題点が認識されており、その不完全さが長年指摘され続けてきました。これらの中で2つの例を挙げるとすれば、未報告の犯罪が統計に反映されない(犯罪統計に暗数が存在する)という点と、犯罪統計上で異なる種類の犯罪が同じように数えられているという点です。

前者は、犯罪それ自体の性質故に、犯人が自首でもしない限り、被害者や第三者による通報や警察による能動的監視がなければ認識されず、犯罪統計にも反映されないために起こります。結果、犯罪統計は、ある社会で起こった犯罪行為のすべてを描き出すことができません。とりわけ強姦や痴漢等の性犯罪や家庭内暴力等の身内での犯罪行為は、犯罪統計が過小評価しやすい罪種だと考えられています。

また後者は、犯罪件数の数え方に由来する問題で、殺人や放火のように深刻な被害をもたらす犯罪行為から万引きや遺失物横領等の比較的軽度な犯罪行為まで、犯罪統計上での数え方が同じであるという点です。殺人が1件、窃盗が1件というように、被害度や深刻度の全く異なる様々な犯罪行為を同列に扱うことは、ある社会での犯罪情勢を俯瞰的にみる上で障害になり得るということです。

先進諸国では、窃盗や器物損壊といった比較的軽度な犯罪行為が全体の多くを占めているため、これらの罪種が1%減少すると、深刻な被害をもたらす一方で窃盗等に比べ件数が圧倒的に少ない罪種(殺人や強姦等)の増加を隠してしまうという現象が起こってしまいます。

例えば、ノルウェーでは、2007年から17年までの10年間の間で、1年間あたりの犯罪件数が20%も減少しましたが、同時期に強姦は64%、その他の性犯罪は110%増加していました。罪種ごとの被害度や深刻度を鑑みずにデータとして犯罪統計に反映してしまうと、件数が圧倒的に多い罪種が犯罪件数全体の増減をコントロールしてしまうという訳です。

ある特定の罪種の方が、他の犯罪行為よりも深刻な被害を被害者や社会にもたらすという意味で、様々な犯罪を序列的に捉え直すことができます。ところが、例えば殺人がどれほど窃盗よりも深刻な被害をもたらすのかという問いに答えることは容易ではありません。

ある犯罪学者は、一般市民へのアンケート調査を基に経験的観点から罪種ごとの深刻さを評価しようとした一方、別の犯罪学者は、犯罪がもたらす経済的損失を軸に、どの罪種がどの程度他の罪種よりも深刻であるのかを見積もろうとしました。犯罪による被害を誰の視点からどのように概念化していくのかという作業は、犯罪学者の間でも意見が全くまとまっていないのが現状です。

日本版ケンブリッジ犯罪被害指数で各都道府県の数値を算出

こうした中で、2年前にケンブリッジ大学犯罪学研究所のシャーマン教授の率いる研究グループが発表した「ケンブリッジ犯罪被害指数」というコンセプトが世界的に注目を浴びるようになりました。

ケンブリッジ犯罪被害指数とは、英国国家統計局が公表している犯罪統計と、量刑評議会が定めた量刑ガイドラインを基に、罪種ごとの発生件数に犯罪被害の基準値を掛け合わせるというもので、その基準値は法定刑の最低を日数換算で算出しています。

量刑ガイドラインで定められている量刑下限は、初犯者でかつ特筆すべき減刑・加重要素のない者に対して言い渡されるため、ケンブリッジ犯罪被害指数が定める犯罪被害とは、純粋な犯罪行為自体が引き起こす害を定量的に評価したもので、犯罪行為を引き起こした犯人本人の特徴、犯歴、有罪性は計算式に取り込まれていません。

このようなシンプルな計算方法が採用された背景には、これまでの犯罪学界における犯罪被害の定量化の試みが複雑さを極めていたことや、同じ罪種を一定軸で包括的に評価することの重要性が認識され始めたことに依拠していますが、本稿ではせっかくなので、ケンブリッジ犯罪被害指数の計算式を基に日本の各都道府県の犯罪被害指数を計算してみようと思います。

今回用いたデータは、警察庁が現時点公表している2001年から17年までの犯罪統計に含まれている刑法犯33種で、基準値は刑法で定められている法定刑の下限値を採用してみました。例えば、殺人の場合、刑法第199条に定められているように懲役5年(1825日)を基準にしています。

一方で、第222条で定められている脅迫罪のように法定刑が上限値だけしか定められていない場合は、第12条から17条で定められている刑罰の種類に応じた量刑下限を基準としています(懲役刑の場合は30日)。量刑下限が罰金か科料の場合は、それぞれ2日と1日換算で計算しています。

以下の表は、計算結果に基づいた各都道府県の人口1000人あたりの犯罪被害指数を順位付けしたものです。この表から見て取れるように、国内でも相当な格差が生じていることがわかります。とりわけ大阪の犯罪被害指数は、全国平均の約2.8倍で、最も数値が低かった富山の7倍以上も高いという結果が出ました。

また、犯罪被害指数が高い都道府県はどれも人口が多く、人口密度の高い地域に犯罪被害が集中していることがわかります。皆さんの出身地の順位は国内平均よりも高かったでしょうか、それとも低かったでしょうか。

もっとも、刑法で定められている量刑下限が、英国のガイドラインでいう「初犯者で特筆すべき減刑・加重要素のない者に対して言い渡される刑」というわけでは全くないので、基準値の合理性を高めるためには、罪種ごとに初犯者が言い渡されている刑罰の平均値のデータが必要となります。現時点では、そのようなデータは公表されていないため、基準値の一貫性を保つために法定刑の最低を採用することにしました。

とはいえ、単純に犯罪件数を都道府県人口で割っただけの順位付けよりも、より深刻な犯罪に相当な加重を加えたケンブリッジ犯罪被害指数方式の方が、刑法犯すべてのデータを一括にまとめた上で、各都道府県の治安レベルをより実態に近い推測値を出せるという意味で優れたツールになりえるということは間違いないでしょう。

平 勇輝
ケンブリッジ大学法科大学院犯罪学研究所修士課程

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