バロンズ:次なる危機の発火点はどこか

2018年09月10日 06:00

バロンズ誌、今週のカバーはもちろん、金融危機10周年を取り上げる。当時、投資家にとっては世界の終わりのように感じられた2008年9月15日かS&P500は46%も下落し、何十年に及び培ってきた退職者の資産を吹き飛ばした。あの頃の衝撃は今も冷めやらず、2007年に株式に投資していた米国人は65%だったところ、2018年は55%へ低下している。特に18〜29歳では2001〜2008年の42%から2009〜17年の31%、また30〜49歳でも71%から62%と低下が著しい。金融危機がもたらした米国人のさらなる投資姿勢の変化と今後の見通しについては、本誌をご覧下さい。

来週に特集を組むのかと思いきや、今回のカバーで登場。

(出所:Barron’s

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、次なる金融危機に焦点を当てる。抄訳は、以下の通り。

次の危機の見定め方とは—How to Spot the Next Financial Crisis.

1929年の世界恐慌と2008年の金融危機、それぞれの10年後では類似点より違いが数多く見受けられる。例えば、1929年の世界恐慌を経て、失業率は10年後も17%とピーク時の25%とから低下したとはいえ高水準にあった。ダウ平均が1929年の水準を回復するまで、25年を要した。

しかし、金融危機から10年後の現在、失業率は4%を割り込み、米株は弱気相場での下落を取り戻しただけでなく過去最高値を更新し続けた。世界は平和とは言い難いが、戦争へ突入するような状態にはない。とはいえ、金融危機の爪痕は未だに感じることができる。ズラウフ・アセット・マネジメントの創業者でバロンズ誌のラウンドテーブルの一員であるフェリックス・ズラウフ氏は、「今回は違う」との言葉の危険性を認識しつつ、危機はいつでも前回と同じではないと語る。違うという意味では、米国の政治はこれまでと変わった。ただワシントンD.C.でのドラマが連日報じられても、市場を動かす力はそれほどでもない。米中の貿易戦争への懸念が燻るが、特に中国は全面的な対立に突入することを回避するだろう。

何より問題は、政治より中央銀行による流動性供給の終焉と言える。これまで中銀は、資産買入を通じ市場に大規模な流動性を供給してきた。政策当局者は、1930年代の失敗から教訓を得て、当時と反対の決断を導いてきた。とりわけ、米連邦準備制度理事会(FRB)をはじめ欧州中央銀行(ECB)、日銀など、中銀はこぞって量的緩和(QE)に踏み切り、ミルトン・フリードマン氏やアナ・シュウォーツ氏が世界恐慌時における政策当局者の失敗として挙げた流動性の縮小を回避した。

QEは金融資産において奏功し、バーナンキFRB議長(当時)が説明した通り住宅ローン金利や社債利回りを低下させ、住宅や投資を活発化させた。株高を生み、富みを増やし、信頼感を高め、支出を加速させ、所得と利益の拡大をもたらした。

QEは、特に米株で大きな効果を与えた。大いにウィルシャー・アソシエーツによれば、米株時価総額は弱気相場がボトムをつけた2009年3月から337%増の27.8兆ドルに膨れ上がった。ヤルデニ・リサーチは、S&P500の上昇がFed、ECB、日銀の保有資産が当時の約4兆ドルから約15兆ドルへ拡大した動きと比例すると分析する。

FRBの保有資産、米国債などゆっくりと着実に減少中。

bs
(作成:My Big Apple NY)

しかし、今は違う。2017年10月から、Fedは保有資産を圧縮し、これまで2,520億ドル縮小させた。ブリークリー・アドバイザリー・グループのピーター・ブックバール最高投資責任者(CIO)が指摘するように、2017年10〜12月期にFedやECB、日銀による資産買入が月当たり1,000億ドル相当だったところ、今年の10〜12月期にはゼロとなる。

ズラウフ氏いわく、「危機は大抵、流動性が逼迫する時に生じる」。その上で、「Fedが2009年に保有資産を拡大し資産価格を押し上げた動きと逆で、保有資産を本格的に縮小すれば、資産価格は下落する」と警鐘を鳴らす。

既に、金融市場ではエマージング市場を中心に緊張が走り、トルコ、アルゼンチン、南アフリカの通貨が売りを浴びている。イタリアでは、ポピュリズム色の濃い新政権が放漫財政に着手するリスクとEU離脱への懸念をにらみ、利回りが上昇中。中国も、過剰債務に揺れている最中にある。

しかし、中銀がもたらした真のバブルは、ブックバール氏によれば国債と社債の市場にある。中銀がQEからQT、即ち量的縮小に進むなかで、今から1年から2年の間に衝撃が訪れるだろう。ダラス連銀の元アドバイザーであるダニエル・ディルティーノ・ブース氏いわく、債券バブルは株式バブルを促してきた。過去5年間で米企業は低金利を梃に9.2兆ドル相当の社債を発行し、3.5兆ドルの借換にまわしただけでなく、自社株買いを実現させ、2018年に過去最高の8,500億ドルに突破する見通しだ。

借入を通じたレバレッジは経済に浸透し、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのマイケル・ハートネット首席投資ストラテジストも「自社株買いは借入によるレバレッジで、プライベート・エクイティ(PE)も株式ポートフォリオからレバレッジを駆使し、減税が米国債で資金調達しているのもレバレッジだ」。

ストラテガス・リサーチ・パートナーズの代表であるジェイソン・デセナ氏は、PEが最もQEによる恩恵を受けた市場と指摘する。公的退職金ファンドは平均7.6%の上昇を遂げ、債券や株式のパフォーマンスを大きく上回る。つまり、こうしたファンドがPEに集中するならば、何十億ドルもの資金が次のウーバーやスラックに群がっていることとなる。

マクロメイブンズのステファニー・ポンボイ代表によれば、金融危機時の住宅市場と同様に年金こそが次の危機を招く震源地だ。米国の公的年金は4兆ドルの資金不足に陥っており、サブプライム市場で5,000億ドルがアンダーウォーター(残債が担保価値を下回る状況)だった時を彷佛とさせる。ポンボイ氏はまた、クオンツ投資やETFを中心とするパッシブ投資の普及が、下落局面で状況を悪化させると説く。

JPモルガンのクオンツ・ストラテジスト、マルコ・コラノビック氏も、ポンボイ氏に同調する。アクティブ投資からパッシブ投資への移行、特にアクティブ・バリュー投資家の減少により、市場が大幅な下落局面から回復する力を失った」と分析。同氏が指摘する通り、2兆ドルもの資産がアクティブあるいはバリュー投資からパッシブ、あるいはモメンタム投資へ移った。コラノビック氏は、PEや不動産、非流動性信用資産への投資も、公開市場からキャッシュを吸収したと語る。一連の結果として、同氏はポピュリズムや保護主義の台頭のほか、貿易戦争が挙げられると指摘。その上で、1968年以降のように、世界の金融秩序が乱れ、物価が急騰し、株式のリターンがゼロとなるリスクを警告する。

パウエルFRB議長は、ITバブルの崩壊と金融危機という2つの危機が物価上昇ではなく市場の超過需要によるものと語った。これは、利上げと保有資産の圧縮をゆるやかに継続することを意味するのだろうか?あるいは、パウエル氏は資産価格の下落をリスクとみなしていないのだろうか?ハートネット氏は「景気後退の近道は、メインストリートのインフレというより、(日本、欧州、中国の例で確認できる通り)ウォールストリートでのデフレだ」と説く。そして、コラノビック氏が指摘するように、経済減速は政治的あるいは社会的な影響を与えうる。

ズラウフ氏は、世界危機のリスク台頭のほか、米経済の減速や物価上昇懸念の後退により、Fedが保有資産の圧縮を停止する可能性をにらむ。ただし、ズラウフ氏はそうなった時点で既に資産価格は大幅に下落していると予想。その時こそ、買い場なのだろうが、投資余力を確保しているかどうかが問題だ。


家計のバランスシートが比較的健全な状況では、次なる発火点は企業や投資家が握っている可能性は否定できません。しかも、社債発行残高はGDPの10%近くまで上昇してきました。

cb
(作成:My Big Apple NY)

企業が資金調達で困難に直面すれば、雇用や設備投資に直接ダメージが及ぶこと必至。個人的には、ETFなど金融商品と合わせ社債市場に注意が必要とみています。

(カバー写真:Mattia Landoni/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2018年9月9日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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